年商23億円の化粧品会社をモデルにしたケーススタディの3回にわたる連載、今回は第2回目です。(第1回「顧客が増えているのに、売上減少・・・なぜ?」を参照)
成長期の通販会社の現場で実際に起こりがちな事例を想定。
売上減少に陥ったキララ商品が年商30億円も見える成長路線に戻るまでの過程を、ストーリー形式でお伝えします。
300社以上の支援実績からロイヤル顧客を育てる方法をわかりやすくまとめました。
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目次
DMからの売上が、最盛期から半減した理由を探る
それから1年と少し後、4月中旬のよく晴れた日の昼下がり。
徳田は不安な表情で、港区・芝公園にある森崎のオフィスを訪ねていた。
森崎からのアドバイスを実行したところ、1・2回目のDMでは予想以上のレスポンスがあり、当初は既存客からの売上が急上昇していたが、3・4回と送るうちにだんだんとレスポンスも落ちてきていた。
5回目のDMではとうとうDMからの売上が1回目の半分になってしまい、全体の売上も元の停滞傾向に戻ってきてしまった。
「森崎のアドバイスを受けて、直近1年半で購入履歴のあるお客様に絞って、商品カタログを2ヶ月に1回送っていたんだ。
最初はよかったんだが、だんだん効果が薄れてきてしまって…」
話し始めた徳田に対して、森崎は言った。
「あのときは話が途中で終わってしまったんだっけ。
オレも次のアポイントがあったからな、悪いことをしてしまった。
あのときに言ったとおり、購入履歴のある顧客へのDMは、その時点で収益をあげるためには、即効性の高い方法だ。
ただ、肝心の部分なんだが、前に話した『戦略的顧客セグメント』で大切なのは、セグメントに合わせて、顧客を育てていくという考え方だ。
これを忘れると痛い目に遭うこともある。」
徳田にあらかじめ売上データを送ってもらい作成したグラフを、森崎はプロジェクタで会議室のスクリーンに映し出した。
「それなら一度きちんと事業診断をしたほうがいい」という森崎の厚意を受け、徳田が事前に自社のデータを送って、費用は支払わずに分析してくれることになったのだ。
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既存客のフォローを怠り、顧客数は増えたものの売上は停滞
「こんなことをクライアントにすると、数十万円もお金をいただいているんだがな、前回はオレも中途半端なアドバイスしかできなかったからな。今回は特別だ。」
はじめにスクリーンに映し出されたのは、四半期ごとの顧客数の推移のグラフだった。
「これを見ると、顧客数は順調に増えていることがわかる。
徳田も、広告のレスポンスは好調と言ってたからな。じゃあ、売上もそれに比例して順調に増えているかというと…」
森崎はPCを操作しながら、次のグラフを映し出した。
もちろん、売上は順調に増えているわけはなかった。
2005年までは急成長していた同社も、2006年に入ってからその伸びが徐々に鈍化。
初めて売上が減少に転じたのは、徳田が森崎と会う前の2007年初めのことだった。
森崎のアドバイスを受け、既存顧客へのカタログ送付を始めた当初は売上がぐんと伸びたが、その効果も1年たたないうちに続かなくなり、2007年終わりには、2回目の売上減へと陥った。
「1回目の売上減の原因は、これを見るとはっきりとわかるだろう。」
こう言いながら、森崎が顧客セグメント別の売上推移グラフを見せる。
2006年の9月をピークに、<常連客>や<普通客>からの売上が減っている。
広告の大量投下による、<新規客>からの売上増でなんとか右肩上がりを保っていたが、そのバランスが崩れたのが2007年の初めのことだった。
自分の成績表をまざまざと突きつけられ、それでも徳田は不思議と冷静な精神状態でいた。これまでは何となくでしか分かっていなかったことがデータで可視化され、むしろ、すっきりするくらいの気持ちでいた。
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カタログ送付が、「離脱客」と「休眠客」の増加に拍車をかけた
しかし、1年前に森崎のアドバイスを受けて、その<常連客>や<普通客>からの売上アップに努めていたはずなのに、なぜ今また売上が落ちているのか…?
これを見てもまだモヤモヤとしていた徳田だが、切り替わった次の画面に映し出されたグラフを見て、ようやく合点がいった。
これは、顧客数の推移をセグメント別に分解したグラフだが、一番に目立つのが、<離脱客>と<休眠客>の増加だ。
せっかく新しく顧客リストを獲得しても、リピート率が低いので、<休眠客>や<離脱客>に流れてしまう。
しかも、既存客へのフォローを特にできていたわけではないので、せっかくリピート購入してくれていた<普通客>や<常連客>も、自然に減ってきている。
2007年初めまで続いたこの傾向に拍車をかけたのが、意外にも徳田が始めた既存顧客へのカタログ送付だったという。
「ここからが本題なのだが、この半年間で売上が落ちた、その原因の1つは、<常連客>からの売上が減っていることだ。
この理由はわかるか?まあ、順番に話していこう。
オレが1年前に話したのは、実は『RFM分析』という考え方がベースになっているんだ」
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「売り込み」ばかりが続くと・・RFM分析の弊害とは?
RFM分析というのは、<最新購買日(Recency)><購買頻度(Frequency)><累計購買金額(Monetary)>という3つの側面から優良顧客を見極める分析手法のこと。
徳田が行った、「直近1年半で購入のあったお客様に商品カタログを送る」という手法も、<最新購買日(Recency)>の<R>に基づいている。
RFM分析の基本にあるのは、「買ってくれそうなお客様」に販促費用を集中して、DMやアウトバウンドなどの販促策をかけていく、という考え方。
これまで買ってくれたお客様なのだから、どんどんと買ってくるのは当然。
そのため、一時的な収益の最大化を、非常に合理的に行える。
一方、その結果、何が起こってしまうかというと…
せっかくの優良顧客が、だんだんと買ってくれなくなるケースが多いというのだ。
「おまえがお客さんの立場だったら、毎月同じようなDMが自宅に届き、その中身が商品の売り込みであると想像した時点で、『あぁ、またか』と思うだろう。
そして、送られてきたDMを封も開けずにゴミ箱に捨ててしまうんじゃないか?」
森崎によると、1990年代からRFM分析を取り入れる通販会社が増えていったという。
「最近に買ってくれたお客様は、次も買ってくれる確率が高い」というのは多くのケースで当てはまった理論のようで、最初は順調にレスポンスがとれていた会社が多かった。
しかし、DMやカタログが送り続けられてくると、最初は気前よく買ってくれたお客様にも飽きられてしまい、「しつこい」と嫌がられてしまうことになっていった。
その結果、短期的に売上を伸ばしても、後で伸び悩むという会社が増えていたのだ。
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R F M 分析を理解せずに使うと、顧客の「切り捨て」に
キララ化粧品のカタログについても、初めは<普通客>や<常連客>からの客単価アップ、<新規客>の引き上げにつながった。
ところが、「売り込み」の強い内容が半年間も続くとどうしても飽きられてしまい、客単価が元に戻ったり、<普通客>や<常連客>の休眠化が進んでしまったと考えられる。
「逆にいえば、R F M 分析をきちんと理解しないで使うと、顧客を切り捨てることにもなるんだ。この意味、わかるか?」
「これまでは購入額が少なかったお客様」、「昔は常連だったが今はお休みされているお客様」でも、辛抱強く商品の良さをお伝えしていけば、優良顧客になる可能性もある。
しかし、RFM分析では「既に購入履歴のあったお客様」に焦点をあてるので、これらのお客様は、結果として切り捨てられてしまう。
そのため、せっかくの「宝の山」が眠っていたのに、それに気づかないでやり過ごしてしまうことになっていたのだ。
「だから、優良客にDMを送るというのは、最初の特効薬で、その効果が長く続くわけではないよ。
長期的に売上を伸ばしていくには、『買ってくれそうなお客様』だけに注目するんじゃなく、セグメントごとに『顧客を育成する』ためのストーリーを描くのが重要なんだ。」
※本ケーススタディは、スタービューデータ株式会社 室屋彰氏に企画協力をいただいて、株式会社ファインドスターで制作致しました。
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