前編の「英会話教材の『無料お試し』オファー、申し込んで浮かんだ“なぜ??”」では、ある英会話教材の広告の事例を紹介しました。
心理学の理論と通販広告の歴史から、“初回申し込みのハードルの低さ”と“継続へのコミットメント”を両立させオファーのあり方を、ひも解いていきます。
目次
「無料お試し」オファー、申し込んで浮かんだ“なぜ??”
前号でご紹介したのは、英会話教材の通販の「無料体験用CD」のオファーでした。
・無料体験用CDを聞いて、無料体験期間以降も勉強したいということなら、そのまま開封してお使いください。(料金は、同封した用紙で支払い)
・もし無料体験用CDを聞いて満足しなかったら、有料版CDはご返品ください。その場合、料金は送料含めてかかりません。
という立て付けで、本商品(定期コース)への引き上げを狙っています。
返品対応のコールセンターの受電や往復の送料に余分な費用をかけてまで、このような販売モデルをとっているのは、化粧品・健康食品通販で一般的なように、無料サンプル/本商品を送ってから引き上げを狙うよりは、引き上げ率が高いからなのか?
そんな疑問が浮かんだときに思い浮かんだのが、このサイトの読者の方なら、聞き覚えがあるかもしれません、「保有効果」という心理学の効果でした。
一度手に入れたら、手放したくなくなってしまう不思議
保有効果とは、ヒトは一度自分のモノになると、それを手放すときには、手に入れたとき以上(たとえば2倍)の価値をつけるという傾向のことです。
これを裏付ける心理学の実証実験は、以前にお届けしたこちらの記事などご覧いただければと思いますが、 この効果を通販で応用したのは、返金保証。
「全額返金保証」で購入のハードルが下がったのを受けて迷いながらも購入に踏み切ったお客様も、「保有効果」によって購入した商品の価値を高く感じるようになるため、返金率が低くなるという道理です。
この英会話教材についても、CDの実物が手元にあると、
「体験用CDを聞いてみて良さそうだし、封を開けてみよう」
「返品するよりは、せっかくだし勉強してみるか」
と返品に至らないお客様が、多くなるのかもしれませんね。
「初回申込のハードル」と「継続へのコミットメント」で分類すると
今回紹介した英会話教材の“売り方”について、抽象度を高めて考えると、
・「無料オファー」で、申し込みのハードルを下げる
・有料の本商品を手放したくなくなるように、コミットメントを高めるトリガーを埋め込んでおく
とひも解くことができるかもしれません。
この原理は、他の売り方でも実は共通していますね。
たとえば、定期購入を条件に初回価格を1000円以下など大幅に下げて、広告で販売する手法。
導入する会社が最近増えていますが、これも申し込みのハードルを下げつつ、その時点で定期購入をコミットしてもらう練られた方法と言えるでしょう。
AmazonプライムやApple Music、HuluやNetflix・・・
原価のかからないデジタルサービスでは「初月無料」や「3ヶ月無料」で月額課金(=定期購入)への移行を狙う形態が一般的になっていますね。
(最近では、Wi-fi端末など現物にも取り入れられているようです。)
オファーの栄枯盛衰の歴史を振り返ると・・
ここでちょっとだけ昔に視点を移して、通販のオファーの栄枯盛衰をみていきましょう。
はじめは、ほとんどの会社が初回から「本商品売り」。
「広告だけでは信頼できない・・」と注文をためらう消費者のために導入されたのが、全額返金保証です。
市場の成長とともに新規参入が増え、競争が激しくなると、高額なオファーでは売れにくくなります。
そこで登場したのが、「1,980円でお試し」「無料サンプル」「トライアルセット」などの2ステップの売り方。
ところが、初回申し込みのハードルを低くすればするほどCPAは低くなりますが、その反面コミットメントが下がると、本商品/定期コースへの転換は厳しくなってしまう。
さらに、同じようなオファーを導入する企業が増えると、お試しオファーでもCPAが上がったり、なかなか定期コースに引き上がらなかったり・・
インバウンドの電話やECの確認画面等での引き上げに力を入れても、なかなか成果が出ない。
そんなジレンマを解決するために生まれたのが、「初回からの定期コース」や「初月無料お試し」などの売り方でしょう。
※私の頭の整理も兼ねて図にしてみたので、よかったらご参照ください。
(突っ々あると思います。。ご容赦を・・)
「無料お試し」+「本商品の返金保証」オファー は、単品リピート通販に応用できる?
今回ご紹介した「無料お試し」+「本商品の返金保証」のオファー、化粧品や健康食品など単品通販に当てはめてみたところで、賞味期限や使用期限を設定する商品や、「人の手に触れたかも・・」が気になる商品だと、そのまま取り入れるのは難しいかもしれません。
ただし、初回申し込みのハードルの低さと継続へのコミットメントを両立させようとした1つのカタチと見ると、オファーを考える面白い材料になるかもしれませんね。
新しいオファーが市場を席巻して、その後にコモディティへと一般的になったところで、また新しい革新的なオファーができる。
単品リピート通販でも、次にどんなオファーができるのか?
注意深く見守りつつ、考えたことを発信していきたいと思います。