化粧品や健康食品などの通信販売では、かつてはレスポンスがあった広告も「最近では反響が獲れなくなってきた」という声がよく聞かれます。
成長期にあった通販市場も、商品によっては成熟期へ移行。
それに合わせて、どのようなコピーが売れていて、あるいは売れなくなっているのか?
背景には、どのような構造変化が起きているのか?
事例と理論を照らし合わせて、考えてみましょう。
目次
ベタなチラシでは、レスポンスが獲れなくなってきた!?
「2014年から15年にかけて、レスポンスの出るクリエイティブの傾向が変化してきた」
そう語るのが、弊社クリエイティブ局の永瀬晃大朗。
彼の分析は、「通販チラシを差別化するには?売れているチラシの特徴から解説」という記事にまとめていますが、具体的な例を1つ紹介すると、「ベタな」通販チラシの反響が悪くなってきたというのです。
ベタなチラシに共通するのは、強いコピーや目を引くデザイン。
そのうえで、「体験談」や「成分解説」など大量の情報が、テキストや画像で隙間なく詰め込まれているのが一般的でした。
また、売上規模の小さな企業ほど、悩みやベネフィットを強く訴求する傾向もありました。
たとえば化粧品では、「シミ」「くすみ」「たるみ」といった悩みと、「○歳若く見える」「○○しただけで(悩みが解決)」といったベネフィットを打ち出します。
多くの通販企業が、レスポンスを獲るための“定石”として、このようなチラシを制作していました。
A/Bテストでの軍配は、“通販っぽくない”チラシに。なぜ?
ところが、ある化粧品会社で複数パターンのチラシを制作してテストをしたところ、意外な結果が出ました。
・A:まるで通販のチラシではないような(=ナショナルブランドが手がけるような)シンプルで「キレイ」チラシ
・B:ベタな通販チラシ
Aパターンのチラシでは、デザインが“通販っぽくない”だけでなく、悩みやベネフィットの訴求は、あえて控えめに抑えました。
これらのクリエイティブのなかで、Aパターンが最も高いレスポンスをたたき出したのです。
他の企業でもこの事例と同様に、
・ベタなチラシを2〜3パターン
・これまでの定石にとらわれないチラシを1パターン
制作してテストしたとき、後者の方が結果が良いケースが増えています。
そう永瀬は述べています。
市場成熟の5段階によって、反響の出るコピーは異なる
どうしてこのようなことが起こっているのでしょう?
これを通販市場の構造変化に要因を求めて、私が永瀬の話を聞きながら思い当たったのは、ある“幻の本”でした。
「市場の壁を打ち破るプロ広告作法」(参考)
著者は、50年前、アメリカで通信販売のコピーライターとして腕を鳴らした、ユージン・M・シュワルツ氏。
(各方面のダイレクトマーケターが推薦していたものの、現在は絶版に…私は国会図書館を訪ねて入手してきました。)
彼曰く、市場の成熟度合いによって、レスポンスの獲れる広告コピーが変わってくるというのです。
ダイエット市場の黎明期に、爆発的な売上をあげた広告とは?
シュワルツ氏は、市場のたどる状況を5段階に分けて解説しています。
・第1段階:ストレートな主張が効果的
・第2段階:誇張的な主張がエスカレート
・第3段階:メカニズムの説明で主張を強化
・第4段階:メカニズムの「尾ひれづけ」合戦
・第5段階:見込み客の願望への同化
例に挙げたのが、20世紀半ばの米国でも、ご婦人の欲求をつかみとっていた、ダイエット商品の広告です。
ダイエット商品が世に出たとき(第1段階)、市場にいち早く参入して爆発的な売上を挙げたのは、次のようにストレートな広告でした。
「今すぐ!みにくい脂肪をとりましょう!」
次に、チャレンジングな先駆者が築いた利益の山にあずかろうと、競合が続々と現れ始めるのが、第2段階。
↑の主張をより強くしたコピーが、大衆の心を惹き付けます。
競合同士による、期待値の吊り上げ合戦の行き着く先
「4週間で、21キロやせましょう!さもなければ、40ドルご返金します」
「わたしは、29キロやせました。全然、空腹な思いをせずにー。」
この例のように、競合各社が見込み客の期待値を2倍・3倍へと吊り上げる約束をするため、キャッチコピーは大げさになっていきます。
すると、そのような刺激的な言葉に見慣れた見込み客は、広告のコピーはどのように映るのでしょうか?
「ことばは、意味を失い始めてくる。買い手の側としては、わからなくなってくる。
そのうちに懐疑的になる。信憑性は台無しになる。
君の主張は、自動的に話半分に割引されてしまう。」(同書より)
この競争がエスカレートすると、ついに政府筋が調査を開始。
そして、販売成績のカーブは下降し始めるとシュワルツ氏は言います。
市場が第3段階へと移ったとき、起こってしまうこと
そこで、市場は“第3段階“へと移ります。
この時期には、ターゲットとなる消費者の多くが、競合の製品を既にいくつか試していることが多いでしょう。
「見込み客が毎朝、朝刊を広げるたびに、また別の、似たようなヘッドラインが、彼らに向かってかな切り声を上げるのだ。」
なかには、広告によって高まった過剰な期待を信じて商品を購入。
結局は効果が出ずにがっかりした人も、いるかもしれません。
そんなときに有効になるのは、「やせる」という主張の裏付け。
メカニズムを強調することです。
「あなたの体から、脂肪を流し出します。」
「初めての脅威の減量薬」
こんなキャッチコピーが一世を風靡しますが、その後に続くのは、第2段階と同じ流れ。
メカニズムのインフレが起こるのが、第4段階です。
「初めて食事療法によらぬ驚異の減量新薬が誕生!」
たとえばこのコピーのように、より強力なメカニズムで見込み客からの信頼を得ようと、尾ひれ付け合戦が始まります。
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この競争にも見込み客が飽きると、市場は“第5段階”へと移ります。
この頃には、市場に参入した企業も増加。
市場は成長期を過ぎて、成熟期に。もう飽和してしまったように見えます。
一見「死んだ」ように見える、そんな商品を復活させるには、どのようなコピーが有効なのでしょうか?
その答えは、「同化」という耳慣れない言葉にありました。
「君は目指す買い手を、欲求を通してではなく、同化を通じて広告の中に引き込もうとするのだ。」
また後編「「市場の壁を打ち破るプロ広告作法」から探る、市場成熟5段階と売れるコピーの推移」で、お伝えできればと思います。