新型コロナウイルス蔓延防止のための「外出自粛」とともに急速に進展した、「オンライン化」や「EC化」。
化粧品や健康食品など単品リピート通販事業に、どのような影響を与えたのでしょうか?
主にデジタル広告による新規顧客獲得への影響について、大手企業を含む約60以上の広告アカウントを運用してきたデータとともにお伝えします。
デジタルからの新規獲得、4~5月は「通常期の1.5倍」など増加
一部の出来事かと思われた新型コロナウイルス。
状況は刻一刻と変化し、「リーマンショック以上の衝撃」とメディアが報じるほどになりました。
多くの企業が変化を求められていた中、通販、特に単品通販の業界で何が起こっていたのかデジタル広告を中心にお伝えします。
誰にも抗えない外部環境の変化。
当然事態のはじめから予測できたことではありませんが、消費者の外出自粛を受け通販業界ではデジタルの広告効果が驚くほどに良くなり、新規獲得件数を例年より伸ばす企業が続出しました。
「新規獲得件数が通常時の約130%にまでなった」
「CPAが従来の80%ほど」という声も聞かれるほど。
様子を見ていた企業でも、広告予算を上乗せして売上を拡大させるということが多くみられました。
では、このようなデジタル広告の好調にはどのような要因があったのでしょうか?
要因1:外出自粛とECの普及
外出自粛の動きから、百貨店やショッピングセンターなどリアル店舗での買い物がしにくくなり、これまでリアル店舗での買い物を中心に生活していた消費者層も、EC店舗に移ってきました。
中には、高齢などネットに不慣れでECを敬遠していた層も取り込み、「インターンネットで買う」ことが一般的になりました。
また「おうち時間」が長くなったことも重なり、インターネットへの接触機会・時間ともに増えました。
デジタル広告に接する層が増えたことが、EC各社の新規拡大につながったと捉えています。
弊社で運用しているアカウントのデータをみても、広告からのトラフィックだけでなくCVRも全体的に上がっていることがわかりました。
外出自粛要請が、ECでの新規獲得効率を大きく改善したことが数字からも見てとれました。
要因2:広告の出稿控えによる配信単価の低下
営業自粛の動きから店舗を閉めるような業種では、広告を出す意味がなくなってしまい、大手も含め出稿を控える企業が多くありました。
当然、デジタル広告全体の広告出稿量は減少しますが、それにも関わらず一人あたりのネット接触機会が増えたことで、広告の需給バランスが崩れるという事象が起きました。
つまり「広告枠が余る状態」となり入札価格の低下を招き、ほとんどのメディアで平均的にCPM(配信単価)が下がり従来と比較すると10%から最大約40%も下がったケースもありました。
外部環境への変化対応は、“二極化”
このような追い風を受け、新規獲得チャネルをデジタルに寄せている単品通販企業の多くが獲得件数を伸ばしていきました。
しかし、全ての企業で新規獲得が伸びた訳ではありません。
たとえばEC以外の販売チャネルを持つ企業では、ECだけでなく企業全体の収益性を考えなければいけません。
そうなるとリアル店舗で減少した利益をEC部門が支えるという構図になり、広告投資も慎重にならざるをえないことは想像に難くないです。
企業を守る戦略として、CPAが低い状況でも広告費は増やさず、全体での利益確保を重視した企業もありました。
一方、専業ECなどで予算の調整ができた企業では、この変化を逃さず広告費を投入して新規獲得を一気に伸ばしていきました。
想定以上の効果から、コールセンターや物流などフルフィルメントの体制整備が追いつかず、目標CPA内で回せても、獲得件数に制限をかけていた企業もあったほどです。
6月以降 今後の見通しは?
単品通販企業にとっては好機ともいえるこの状況はいつまで続くのでしょうか。
私たちは長くは続かないと捉えています。
広告市場は、6月時点で通常に戻りつつある
自粛していた企業の経済活動も徐々に再開されつつある今、デジタル広告の出稿も増え始め、従来の市場環境に戻っていくだろうと考えています。
これを裏付けるように低下していたCPMは、6月上旬の段階でコロナ禍が本格化する以前の2~3月頃の水準に戻りつつあります。
たとえば、子供向けの通信教育などの教材も、一斉休校などの環境変化から高いニーズがありましたが学校の再開とともに徐々に戻っています。
新規顧客増加の反動?LTV低下の懸念も
4月~5月の時期にはユーザー行動の変化から、メインターゲットとは異なる属性の新規顧客を意図せず獲得できた企業もありました。
たとえば、メインターゲットを「子供をもつ女性」としていたが、「働く女性」や「男性」も獲得できたなどです。
しかし、幅広い客層を獲得できたという好結果の半面、コロナ禍以前との比較では離脱率が高まっているという事例も出てきています。
さらに世界的な流れを見ると「経済的な理由での定期解約」の割合が増えているとのこと。
これは新規からだけでなく、景気の悪化から継続顧客が離れていることも考えらえます。
幅広い層の新規獲得と、離脱率増加の因果関係はまだ定かではありませんが、このようなケースがでていることは事実です。
不況の時期には、広告市場における需給バランスの変化からCPAが抑えられることはお伝えした通りですが、新規獲得の伸びに目を奪われるだけでなく、過去の教訓からLTV予測には慎重な見積もりが求められると唱える声もあります。
参考:新型コロナウイルスは2020年のブラックスワン
これからの不況、健康美容産業でEC事業はどうなる?
大きなマーケットでは今後さらに景気が本格的に悪化するとも予測される中、化粧品やサプリメントなどを扱う企業にとって、EC事業の成長見通しはどのように捉えれば良いでしょうか。
ECチャネルは成長の見通し
健康美容関連製品など業界全体のマーケットは、店舗などリアルチャネルからの売上が落ちている状況や、今後の景気低迷にともない縮小する可能性はもちろんあります。
一方で販売チャネルをデジタルに移行していくという、大きな流れは加速しています。
消費者側もコロナ禍という経験から、高齢者を含めた全ての世代でオンライン化が一気に進みました。
マーケット縮小の影響があったとしても、デジタルシフトによる拡大インパクトは非常に大きく、ECなどデジタルチャネルの成長は間違いないと私たちは見通しています。
市場の波に乗れるかは、デジタル化がカギ
危機に直面しても事業成長を推し進めるためには、デジタル環境をいかに整えているかが重要なポイントだと捉えています。
コロナ禍でもデジタルシフトが進んでいた企業では、継続して新規を獲得し売上を大きく伸ばされています。
その一方で、急激な新規獲得の増加を支えるために、フルフィルメントにかかる負担という問題も見えてきました。
たとえば、物流センターではフル稼働により「何とか乗り切った」というケースも多いとうかがいます。
また、コールセンターの稼働に制限が入った企業では、せっかく獲れる新規数を制限せざるを得ないこともありました。
それでもこの未曽有の事態を受け、多くの企業でDX(デジタル・トランスフォーメーション)が急速に進んでいる印象をもっています。
DXを進めるにあたり、これまでリアル店舗とECの部門がそれぞれ顧客管理を行っていたのであれば、顧客データの統合が必要になるでしょう。
また、オムニチャネルに適するような組織変革が求められるケースも当然でてくるでしょう。
私たちはこれまで、デジタル広告からの新規獲得をメインにEC事業の拡大に貢献してきました。
今後ますますデジタル化が加速する中、これまでの新規獲得に加えデジタル領域におけるCRMやカートシステムなど幅広くご支援していきたいと考えています。