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創業8年で売上34億円!airCloset急成長の裏側にある、“顧客体験”のつくり方

月額制のファッションレンタルサービスを展開する、株式会社エアークローゼット。

サブスクリプションモデルを採用して創業から8年間で売上が約34億円に、2022年には東京証券取引所グロース市場にも上場するなど、事業の成長が注目されています。同社がマーケティングにおいて重視していることや、サブスクリプションモデルにおける組織の作り方など、天沼CEOに伺いました。

創業8年で売上34億円!airCloset急成長の裏側にある、“顧客体験”のつくり方(サムネイル)

 
 

「マーケティング」には、創業当初は注力できなかった

 

株式会社エアークローゼット 天沼聰 代表取締役社長 兼 CEO

株式会社エアークローゼット 天沼聰 代表取締役社長 兼 CEO


 
-本日はお時間いただきありがとうございます。事業概要とビジネスモデルを、ご紹介いただけますか?
 
スタイリストが選んだお洋服を、月7,800円からの定額でレンタルできるサービスを提供しています。 
 
お客様には好みやサイズ、なりたいイメージを申込みの際に登録いただくと、その情報をもとにプロのスタイリストがコーディネートを提案。「お洋服との新しい出会い」を純粋に楽しんでいただきたいので、着用後のクリーニングやメンテナンスは当社が行っています。
お客様が気に入ったお洋服があれば、会員様限定の価格で購入いただくことも可能です。
 
現在、サービスを利用いただいている月額会員のお客様は約30,500人(11月末時点)いらっしゃいます。
 
会員数の推移(「2022年6月期 有価証券報告書」より)

会員数の推移(「2022年6月期 有価証券報告書」より)


 
-会員数の伸びが成長を牽引してきました。創業当初から、マーケティングにはどのように取り組まれてきましたか?
 
「新規会員を獲得する」という意味でのマーケティングには、創業当初は実は注力できていませんでした。
 
2015年頃に、サービス開設を予告するティザーサイトを公開して、プレスリリースを出したところ、多くの反響をいただきました。新しいサービスだったこともあってか、マスメディアで取り上げてもらい、口コミも広まったことで、25,000人ものお客様が事前登録くださいました。
 
サービスをローンチしてみると顧客数の伸びが予想以上で、サービスを提供できずにお待ちいただくお客様が出てしまったのです。
 
 
-新規入会を制限していたということでしょうか?
 
はい、当社のサービスを提供するためには、お洋服を揃えるのはもちろん、お洋服を選ぶスタイリストを確保する必要があります。在庫管理や倉庫などロジスティクス、お客様の好みなどを記録するITシステムも、規模が大きくなるにつれて難易度が上がります。
 
プロモーションをかけてお客様を集めるよりは、いかに価値のあるサービスを作れるか?に時間とお金を使いました。
 
それらを1年半かけて解消できて、自信のあるサービスを作れてから、マーケティングチームを組成。新規会員の獲得に、力を入れていきました。
 
ただ、初期は広告宣伝費をかけにくかったので、

  • メディアに番組や記事として取り上げてもらえるか?
  • お客様を起点に「人から人に伝わる」「話したくなる」仕掛けを作るか?

を工夫していました。
 
現在は資金も確保できたので、デジタル広告やテレビCMなど広告からの流入が新規会員の多くを占めています。 
 
 

顧客体験にフォーカスすれば、長期的にはLTVが高まる

 
-口コミですが、SNSでお客様がコーデの写真をアップしているのを見かけます。「お客様から勧めてもらえる」秘訣はありますか?
 
ファッションというサービスの性質はもちろんありますが、当社が「顧客体験」を特に重視しているのが奏功しているのかもしれません。
 
創業時に抱いていたのが、「忙しい女性に、ファッションでワクワクする時間を過ごしてほしい」「当社のサービスが、時間の価値を高められる一助になりたい」という想いでした。だから、
 

  • お客様にお洋服が届く
  • 箱を空けて着てみる
  • 評価を入力して、返却する
  • 次に何が届くのかを楽しみに待つ

 
といった1つ1つの接点に、感動してもらえるようにしたいとこだわっています
 

レンタルした洋服・返却用の袋

編集部でサービスを利用しました。
※外袋や汚れ防止のための包装は、撮影のため取っています。


 
-“感動体験”を実現できているかは、どのように測られていますか?
 
難しいご質問ですが、お客様には1回のご利用ごとにサービスの評価をお願いしていて、そのスコアをモニタリングしています。
 
そういった定量的なスコアはもちろんですが、お客様の声に耳を傾けることを大事にしています。デプスインタビューやアンケートなど、お客様一人ひとりに定期的にご感想を伺っていますし、特に重視しているのが「お問合せ」。
 
1日約数百件の問合せが寄せられますが、実は私自身、今でも全て目を通しているんです。
 
 
-びっくりしました。ただ売上を伸ばすためには、もっと効率が良い方法があるとも思えますが‥?
 
はい、「経営者が、なぜそこまで時間をかけて取り組むのか?」と言われたこともありました。
 
前提として、感動体験をするお客様が1人でも増えれば、「また来月も続けよう」と思ってくださるので、長期的には、継続率やLTVの向上といったKPIにも反映するはずです。周りにも薦めてくだされば、新規顧客の獲得にもつながりますよね。
 
したがって、顧客体験を第一に考えること、なおかつ経営者である私が現状の解像度を高く把握することは、経営として大切なことと考えています。
 
もちろん「数字を上げる」だけなら、効率的な方法は他にもあるとは分かっています。たとえ短期的な売上アップの効果があったとしても、お客様体験を損ねるような施策はしないと決めているんです。
 
 
-具体的には、どういうことでしょうか?
 
たとえば解約を防ぐための施策です。
 
当社でも、年間契約をしてくださったお客様には割引を用意するなど、お客様にメリットを提供しながらLTVを高める仕組みは導入しています。ですが、「購入回数のお約束」、いわゆる“縛り”などで解約したいお客様に、無理に続けさせるような施策はしません。
 
解約の手順を分かりにくくする、無理に引き止めるといったことも、もちろん行っていません。
解約したい方には、すぐ簡単に解約できるようにマイページなども工夫しています。そのうえで、もう一度始めたい人はスムーズに再開できるようにしています。
 
 
-素晴らしいと思います。ただ、解約が増えないか心配してしまいますが‥
 
いえ、決してそんなことはないんですよ。
たとえば、当社の月額会員に登録する方のうち10%強が、過去に解約して再開するお客様です。
 
お客様に価値が伝わっていて、気持ちよく解約してもらえれば、長くファンでいてくれます。そうすれば、またお客様のご都合が良いタイミングで戻ってきてくださると、定量的なデータでも確認できています。
 
「LTVを上げる」という視点ではなく、お客様にとって良い体験にフォーカスして、サービスや施策を決めていくこと。売上アップのテクニックに走らずに、短期的な数字ばかりを追わず、お客様一人ひとりに向き合うこと。
 
「お客様に良い体験を届ける」、その結果として「LTVが上がる」という考え方を、大切にしています。
 
 

経営陣が問いかけ続ける。理念に根ざした組織をつくる。

 
-“顧客体験の重視”は、“短期的な数字”と比べわかりにくそうです。実行するために、何か仕組みを取り入れられていますか?
 
先ほどお話ししたように、評価の定量データ、インタビューやアンケートといったように、常にお客様からのフィードバックが見えるよう工夫しています。ですが、それをどのように活用していくか?について、仕組みや制度といった形には、現状では十分には落とせてはいません。
 
ただ、社員一人ひとりが「お客様中心」の視点で考えられるか?については、かなり意識を使ってコミュニケーションしています。
 
たとえば、CRMのチームが施策を提案してくれた時、私がお客様の視点で質問をしていきます。そういった「壁打ち」のなかで、お客様視点が十分ではなく、自社のオペレーション都合の制度や、短期的な売上だけしか見ていない施策については、コテンパンにされ棄却されます
 
 
-社員の方々にとっては、脅威ですね‥笑
 
打合せでよく社員に問いかけているのが、「もしこの会議室にもう1つ椅子があって、ロイヤルのお客様が座ってらっしゃったら、この施策に心から納得してくれますか?」という質問です。
 
そのうえで施策の理由を尋ねていくとき、「自社都合」は説明にならない、と話しています。
 
もちろん私だけではなく、執行役員はじめとした経営陣では同じ意識をもっていますし、マネジャー含めたリーダークラスにも、浸透させようとしています。
 
 
-組織文化として、根付いてらっしゃるのですね。
 
「全員に浸透しているか?」と聞かれると、まだ正直言って自信がありません。ただ、私をはじめ経営陣がお客様の問合せに1つ1つ目を通していることもあって、「お客様がこうおっしゃってたけど、どうなっている?」「この反応にどういう返信があった?」など、社員は質問を受けます。
 
どの社員も日々の業務のなかで、「顧客体験」や「UX」について考えない日はないはずです。
このようにお客様視点のフィードバックを当たり前のように浴びることが、遠回りに見えて着実な方法なのかもしれません。
 
これらを本当の意味で、組織文化にしていきたいとも考えています。
 
 
-「組織文化にする」とおっしゃいますと?
 
当社では理念を重視した経営をしていますが、あるべき姿の共通認識を持ってもらうために9つの行動指針を掲げています。これまでお話しした顧客体験を大事にするためにも、「お客様の感動が第一」をはじめとした指針があり、これらを体現できる組織でありたいと思っています。
 
airClosetの行動指針
 
そのような理念や行動指針を掲げていても、CEOである私が「とにかく売上をつくれ」などお客様を蔑ろにしたことを言っては、本末転倒です。
 
理念や行動指針が「綺麗事」として形ばかりにはならないよう、経営陣が率先して見せること。
組織の文化として定着するよう、1つ1つ地道に行動している途中です。
 
 

サブスクモデルに合うのは、「変化を楽しめる」人と組織

 
-御社のような組織ですと、マーケターの役割も変わってきますか?
 
いえ、基本的には同じです。たとえば「新規獲得」を担う部門の目標は、エアークローゼットを知ってもらい、月額会員に登録いただく新しいお客様を増やすことです。
 
ただし、所属する部門や個人の役割にかかわらず、「顧客体験を高めるには?」の視点を求められることは、違いとしてあるかもしれません。
 
顧客体験の向上につながる提案をもらった際は、起案をした社員を部署かかわりなくプロジェクトリーダーにしたうえで、施策を進めたり。他にも、新規獲得を担うマーケティングチームがLTVの観点を持てるよう、CRMチームのメンバーを兼務で入れたり、といった工夫をしています。
 
 
-「人事」にも関わってくるのですね。
 
そうですね。これはサブスクリプションという事業モデルが背景にあるかもしれません。
 
これまでの小売業は、「既に作られた製品を販売する」モデルです。
したがって、マーケターの役割も「売ること」が主でした。
 
一方サブスクリプションでは、月額会員に登録いただくのはスタートにすぎません。継続して利用してもらうためには、お客様にとってサービスの価値を高めていく必要があります。
 
そのためにコミュニケーションのあり方を見直したり、どのような機能を求めているのかを把握したり、といった「売ること」以外も役割が広がります。広い意味で言うと、サービス開発に向き合う必要があるのです。
 
 
-多彩な能力が求められますね。人材の採用や育成はどのようにされているのでしょう?
 
まず採用の段階で、「お客様を中心に考え、真摯に向き合い改善する」姿勢があるか?そして当社の理念に合っているか?を重視して選考しています。
 
サブスクリプション事業に合っているのは、一言で言うと「変化を楽しめる組織」だと私は考えています。
 
お客様からのフィードバックを、真摯に受け止められるか?
“自社都合”を排して、サービスやコミュニケーションを改善していけるか?
さまざまな変化に、柔軟に対応できるか?が大切です。
 
変化を楽しめる人に仲間になってもらい、一人ひとりが組織をアップデートし続ける環境をつくっていこうとしています。
 
 

長期視点の経営だから、持続的に売上を伸ばしていける

 
-上場企業として、短期的な利益も求められるはずです。これまでお話のあった顧客志向が足かせになることはありませんか?
 
もちろん前提として私たちは上場企業なので、株主の皆さまの期待にお答えするパフォーマンスを出す必要があります。創業から約8年間で売上約34億円まで到達しましたが、成長スピードに満足している訳では決してありません。「コロナ禍がなければ、もっと拡大が早かったのに‥」という悔しさもあります。
 
それでも、創業の原点である「長く愛されるサービスをつくりたい」という想いはブレていません。短期目線のみでの売上アップは志向せず、お客様体験を常に最上位に置いて意思決定をする。
 
その方が、成長スピードが高まるはずとも考えています。
 
 
-IR資料を読むと、サステナビリティを重視されているようです。利益との両立は?
 
当社のサービスは、お洋服を大量生産・廃棄するのではなく、シェアリングによって使い続けるという意味で、「サーキュラーエコノミー」(=資源の循環などによって、環境負荷と経済成長を両立させる考え方)を体現しています。
自社が取り扱うお洋服については、「衣服廃棄ゼロの実現」も発表したところです。
 
「サステナビリティ」は、時代の大きな流れです。
 
海外では「ESG投資」に注目が集まり、環境や社会性など重視する企業に投資家のマネーが流れています。消費者もそういった企業を支持して、お金を使う動きが強まっていることが背景にあります。
 
長い目で見たとき、サステナビリティを重視していない会社は淘汰されてしまう。逆に言えば、サステナビリティは長期的な利益にも適うはずです。
 
 
-サブスクリプションの事業をこれから始める方、今伸ばそうと頑張っている方に向け、最後に一言をいただけますか?
 
いろいろな考え方があると思いますが、「この領域が儲かりそう」といった打算的なスタートではなく、「この価値をお客様に届けたい」「世界観を実現したい」といった想いをベースに、業界やサービスを選ばれることを私はおすすめします。
 
これまでお話ししてきた通り、サブスクリプションの事業は「売って終わり」ではなく、お客様との継続的な関係性をより良いものにしていくため、1つ1つの顧客接点を良い体験にしていくことが求められます。
 
そのために当社では、組織文化の形成や理念の浸透など、精神的な体力が必要な打ち手にも地道に取り組んできました
 
逆に言えば、「このためには一蓮托生でできる」と強く信じられる業界やサービスなら、覚悟を持って継続的な取り組みを続けられます。私たちも、「女性がファッションを自由に楽しみ、ワクワクする時間を過ごしてほしい」「仕事が忙しくなったり、ライフステージが変わったりしても、当社のサービスが時間の価値を高められる一助になりたい」という創業時からの思いがあったから、つらい時期も乗り越えられました。
 
創業メンバーにとっての「軸」が定まったうえで、そのサービスが大きな時代の流れに合っていれば、きっと成長していけるはずです。

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