年商23億円の化粧品会社をモデルにしたケーススタディ、「顧客育成シナリオ 不在の罠」。
成長期の通販会社の現場で、実際に起こりがちな事例を想定。
売上減少に陥ったキララ商品が年商30億円も見える成長路線に戻るまでの過程を、ストーリー形式でお伝えします。
300社以上の支援実績からロイヤル顧客を育てる方法をわかりやすくまとめました。
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目次
顧客数が増えているのに、売上減少…なぜ?
3月初旬の暖かくなってきた陽射しを背中に受けながら、徳田陽介は大柄な体を縮ませるように、一人頭を抱えていた。
東京・目黒にあるキララ化粧品のオフィスで、徳田が目を遣っているのが、机の上に置かれた、2007年2月の売上収支表。
前月までなんとか伸びてきた売上が、減少へと転じてしまっていたのだ。
徳田がキララ化粧品の社長を引き継いだのは、5年前。
沖縄の植物エキスからとった自然派化粧品を販売する同社は、先代である徳田の母が立ち上げた。
徳田が会社を引き継いだときには、卸を中心に細々と展開していたが、通販化粧品市場の成長に乗り、40~50代女性に向けた直販を拡大。
それ以降は通販をメインにして、3億円だった年商を23億円まで急成長させてきたが、この1年間は売上の伸びが鈍化し始めていた。
とはいっても、折込チラシや地方紙等を中心に出稿している広告のレスポンスは相変わらず好調で、2週間前に23万円で出稿した地方紙の半5段広告が当たり、40人以上がトライアル商品を購入したばかりだった。
「新規顧客は増えているはずなのに…なぜだ?」一人悩んでも答えが出ず、かといってそんな状態で部下に相談することもできなかった徳田は、友人の森崎に話を聞いてもらうことにした。
森崎は、大学時代に所属していたラグビー部の同期。
新卒で入った大手健康食品通販会社に5年間勤めた後、転職をして、いまはコンサルティング会社で顧客データ分析を専門にした支援をしている。
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成長期の通販会社によく起こること!?コンサルタントからの指摘
次の週の火曜日、東京駅・新幹線改札口近くのスターバックスで16時に徳田と森崎は待ち合わせた。
大学のときから20年来の付き合いになる二人だが、この日会ったのは1年近くぶりだった。
森崎は全国のクライアントを訪ねて飛び回っており、この日も2件の出張を梯子する途中。
ちょうどこのタイミングなら時間がとれるということで、時間と場所の指定があったのだ。
「これは成長期の通販会社にはよくあることかもしれないな」
これまでのいきさつを簡単にまとめて、徳田が5分くらいで話すと、森崎は開口一番にこう述べて、解説を始めた。
新規顧客を獲るための広告は、レスポンスという形ですぐに成果が見えてわかりやすい。
特に反響が良いときには、PDCAがどんどんど回っていき、加速度的に成長していく。
一方、既存客のフォローといえば、データベースを整備したり、定期的に会報誌を発送したりなど、地道な作業も多く、大切なことはわかっていても、なかなか取り組めない企業も多いという。
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広告投資は順調なのに、「倒産」の不思議
「この前、福岡にある健康食品の会社が倒産したらしいんだ。
この会社は月商でも2億円はあって、広告も派手にやっていたから、業界では儲かっていると思われていた。
倒産と聞いてオレもびっくりしたんだが、どうも中身は自転車操業だったみたいだ。」
この会社では、新規顧客獲得のためのプロモーションは大々的に行っていたが、リピート施策がほとんど行われてなかったという。
「驚いたことに、健康食品なのに定期コースがないんだ、どうやって売っていたかというと、トライアルを購入した新規客にアウトバウンドをかけて、5セット分をまとめ売りする。その後は何もしない。」
お客様の立場からは、初めに買ったきりであとは連絡してこないから、忘れられてしまい、リピート購入が少なかったという。
その分を補うために、広告への投資をやっきになって増やすという悪循環で、新規顧客はどんどん入っていたものの、赤字が膨んでいた。
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新規獲得のレスポンスにかまけて、リピート施策は後回し
「そういえば、うちも・・・」徳田にも思い当たる節はあった。
キララ化粧品は訴求力の強いキャッチコピーと、使用者の体験談を数多く載せたクリエイティブを武器に、最近では珍しいくらいに高いレスポンスをとれていた。
この広告を、最初はフリーペーパー、その後に雑誌の連合広告や新聞折込、通販カタログへの同梱など紙媒体を中心に面展開。
1,980円のトライアルセット購入で、1~2年前に
はCPR3,000円台、今でも4,500~6,500円と、非常に効率良く新規顧客を獲得してきた。
「いまのうちにリストを獲っておこう」と広告への投資は熱心に行い、また、インバウンドのためのコールセンターの拡充などにも取り組んでいたため、既存客へのフォローに人員も予算もあまり割けていなかったのだ。
フォローらしきものといえば、見込み客も含めたすべての顧客リストに3ヶ月に1回、会報誌を送ってきたくらい…
そこからの自然発生的な電話でのリピート注文でも、これまでは何とか回ってきたのだった。
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既存顧客を5つに分類、「戦略的顧客セグメント」とは?
「まあ、でもそんなに焦らなくてもいい。この状況からとりあえず抜け出すのに一番手っ取り早いのは、買ってくれそうなお客様への接触頻度を増やすことだ。」
森崎は「ちょうどよかった」と鞄からクライアントへの説明用資料を取り出し、 解説を始めた。
「おまえの会社でも、いくら既存客への施策を重視していないとはいっても、現役で買ってくださるお客様と、休眠のお客様くらいの区別はしているだろう。
顧客数の多い会社では、お客様をもう少し細かく分類して、セグメントに応じて販促をかけているんだ。
15くらいまで細かく分けることもあるんだが、今回はシンプルに5つに分けて考えよう。」
・常連客:会社と商品に強く興味を持ち、単価や購入頻度も高いとっても大切なお客様。
VIP。
・普通客:VIPの次に、会社と商品に興味がある顧客。
丁寧な接客でVIP引き上げを。
・新規客:新しく入った顧客。
まだ会社や商品のことがよくわからない不安な状態。
継続してもらうフォローを。
・休眠客:以前まで購入してくれていたが、会社や商品に興味が薄れ始めた人。
離脱前に、引き止めよう。
・離脱客:完全に興味を失った顧客。
引き上げはなかなか難しいので、費用対効果を考慮してアプローチ
「戦略的顧客セグメント」と題した図にもとづいた森崎の解説は、非常に明快だった。
森崎は、大学時代のラグビー部ではスタンドオフという司令塔のポジション。
大きな体を生かして果敢に突進を繰り返す徳田のプレースタイルとは対象的に、敵チームの弱点を分析したり、戦術を立ててチームメイトにわかりやすく伝えたりするのが昔から得意だった。
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収益の回復のために、手っ取り早くできること
たとえば、最近購入し始めた<新規客>には、自社商品や会社のこと、お薦め商品などを丁寧に説明すると、お客様がより会社や商品に興味を持ってくれる。
逆に、お付き合いも長く、商品や会社のことをよく理解してくれる<常連客>には、客単価とリピート率をアップさせる積極的な販促が基本となる。
多少馴れ馴れしいと思われるアプローチでも、そんなに嫌な顔はされない。
一方、今まで購入してくれていたが、何らかのきっかけで購入を止めてしまった<休眠客>は、早めにフォローしておかないと、商品や会社のことをすっかり忘れ、興味を失う<離脱客>と化してしまう。
特に、<常連客>から<休眠客>に流れた顧客は、早めにアプローチして、多少の割引やキャンペーンをしてでも戻っていただくようにしなければいけない。
「このうち、一番早く収益を回復させようと思ったら、<常連客>や<普通客>に販促をかけるのがいいのはわかるだろう。」
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「常連客」へのDMは、反応率10%も
たとえば森崎の経験では、<常連客>にDMを送ると、 反応率が10%はとれることが多かったという。
顧客リストが10万人いる会社の場合、常連客が1割の1万人とする。
DMのレスポンス率が上の半分の5%としても、反応する顧客は10,000人×5%で500人。
平均購入単価が8,000円とすると、単純な計算だと、一回のDMだけで8,000円×500人=400万円の売上が立つ計算になる。
一方、コストは1通あたり100円とすると、100円×1万人=100万円だ。
100万円の費用で400万円の売上があがるのならば、既存顧客からの売上アップによって成長路線に戻るのも十分に見えてくる。
「ただし、この常連客や離脱客などの分類は、うちの会社のASPシステムを使っているから、徳田の会社でいきなり実践するのは難しいだろう。」
森崎はこうも言ったが、代わりとなる指標を徳田に教えてくれた。
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直近購入1年半以内の顧客にDMを送付、売上は回復基調に
直近の購入があった顧客、たとえば1年半以内に購入があった顧客を抽出して、彼女たちにDMを送っていくだけでも、何もフォローをしないのとは大きな違いが出てくるという。
「既存客へのフォローでいまやっているのは、会報誌を3ヶ月に1回送る程度だったっけ?それなら、今まであまりやってなかった分、すぐに効果が出るんじゃないかな。
「ただ、これはあくまで、即効性のある施策ということで、長期的には他にもいろんな手を打っていく必要があるんだが・・・
申し訳ない、実は次のアポイントがあって、もう行かなくちゃいけないんだ。
続きはまた話そう。」
森崎からのアドバイスを受けて、徳田は帰社するとさっそく行動を始めた。
経営企画室の浜口良太に、直近1年半で購入履歴があったお客様を抽出するように指示。
まずは、これまで送っていた会報誌とは別に、購入に直結する商品カタログを作り、2ヶ月に1回送る準備を始めた。
社外の制作会社の手も借りて、なんとかカタログが完成。
ちょうど新製品のクレンジングジェルが出るタイミングだったので、これをメインの内容にしたところ、期待以上に反応が良く、5.7%のお客様が買ってくれた。
既存顧客からの購入回数・単価が上昇したのを受けて、売上も回復を始めた。
「森崎はまだ続きがあると言っていたが、これだけ順調に売上が上がるなら、特にまた相談する必要ないだろう。
あいつもかなり忙しそうだったからな、しばらくはこのやり方でいってみよう。」
こうして、施策は順調に進んでいるかに見えたが、しばらくすると売上は停滞を始めた。
(続く)
※本ケーススタディは、スタービューデータ株式会社 室屋彰氏に企画協力をいただいて、株式会社ファインドスターで制作致しました。
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