顧客のロイヤルティを測る指標として有名な、NPS(ネットプロモーター・スコア)。アップルやP&G、スターバックスはじめ世界的大企業も導入するなど、注目されています。通販・ECやサブスクリプションあるいは会員制など、顧客と直接につながる「ダイレクトマーケティング」のビジネスモデルでも有効なのでしょうか?収益の改善に貢献した3つの事例と、指標の活用法をお伝えします。
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はじめに:NPS(ネットプロモーター・スコア)とは?
NPS(ネットプロモーター・スコア)とは、顧客の推奨度をアンケート形式で測る指標です。
この会社(あるいは、この製品、サービス、ブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどのくらいありますか?
この1つの質問に、0点から10点までの11段階で、顧客に点数を付けてもらいます。
その答えを元に、顧客を「推奨者」「中立者」「批判者」の3つに分類します。
・推奨者:9-10点を付けた人
・中立者:7-8点を付けた人
・批判者:0-6点を付けた人
そのうえで、推奨者の割合から批判者の割合を引いた数字が、NPSです。
ある会社でアンケート調査をしたとき、仮に推奨者が40%で批判者が30%なら、40%-30%=10%が、その会社のNPSです。
NPSを活用する企業に求められるのは、顧客からのフィードバックをもとに、製品・サービスやコミュニケーションを改善していくこと。
NPSの活用で目指すのは、直接の売上ではない中間指標を高める、すなわち「周りに勧めたい」という感情を顧客に抱いてもらうことです。
それによって、リピート購入やアップセル・クロスセル、あるいは既存顧客の紹介からの新規獲得などが、無理なく実現しやすくなるという考え方です。
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継続率やLTV、売上などの改善につなげた、3社の事例
このような考え方が単なる“お題目”ではなく、リアルな事業においても収益改善のうえでどのように実行されたのか?
日米英の3社の事例を、紐解いていきましょう。
事例1:Airbnb(エアビーアンドビー)
1つ目の事例は、Airbnb(エアビーアンドビー)。
「部屋や家を貸したい人」と「借りたい人」をWEBやアプリ上でマッチングする、いわゆる“民泊”のシェアリングサービスです。
「2008年の創設以来、累計利用者は2億人」と、爆発的な成長を遂げました。
同社では、約60万人のゲスト(旅行者)から、旅行の終了後にNPSを取得。
そのうち「批判者」の割合は、たった2%という良いスコアが出ているそうです。
(出典:「「紹介」こそ最強のマーケティング戦略 時価総額3兆円超のAirbnbの取り組みの解剖」)
秀逸なのが単に数値を取るだけではなく、「NPSの高い顧客が、売上に貢献しているか?」を定量的に分析していること。
・Airbnbで1年以内に再度予約をしたか?
:0〜6点の批判者より、10点の推奨者の再予約率は13%高い
・紹介プログラムを、1年以内に実行したか?
:0〜6点の批判者より、10点の推奨者の紹介率は4%高い
このようにNPSの高さが、リピートや紹介など顧客行動と相関していると、データで実証されています。
ユーザー体験の質を高めるため、Airbnbがカスタマーサポート(CS)に力を入れているのは有名です。
「スタートアップ時には、創業者自らがヘッドセットをとって顧客からの電話」をとっていた、といった逸話からも、力の入れ具合が分かるほど。
CSの充実をはじめとしたユーザー体験の向上が、NPSの改善に貢献。
リピートや紹介などの結果にはね返り、とユーザーの伸びや売上の拡大サイクルが実現してきた過程が伺えます。
ただし、9-10点の推奨者についても「泊まった部屋のレビューをAirbnbに残さなかったユーザーの再予約率や紹介率を調べると、0〜6点の批判者と変わらなかった」そう。
この結果から、AirbnbはNPSの計測をする時に、適当に9点、10点、をつけているノイズを見極めるために、レビューに回答しているかといった他のユーザー行動も考慮すべきだとしています。
(出典:「「紹介」こそ最強のマーケティング戦略 時価総額3兆円超のAirbnbの取り組みの解剖」)
事例2:ヴァージン・メディア
2つ目の事例が、ヴァージン・メディア。
イギリスに拠点を置く、ケーブルテレビやインターネット接続サービスの企業です。
「売上高60億ドル」「従業員約13,000人」「顧客数百万人」の巨大企業(2008年時点)でしたが、同社の課題は解約率の高さや継続期間の短さ。
「顧客サービスの評価でも、顧客維持率でも業界最低だった」そうです。
(出典:「ネット・プロモーター経営 〈顧客ロイヤルティ指標 NPS〉 で「利益ある成長」を実現する」フレッド・ライクヘルド他)
そこで、新CEOが立て直し策の目玉としてNPSを導入。
現場から経営陣までコミットして改善活動を進めたところ、2年間でNPSが3%から18%へと15ポイントも上昇。
解約率も月間1.8%から1.1%に減少するなど、顧客との関係性が大きく改善したそうです。
その結果、同社は「業界の下位から真ん中に」浮上しました。
ヴァージン・メディアは、最低の解約率、最小の顧客獲得コスト、最高の顧客一人当たり売上高を達成できるだろう。
それは、顧客の生涯価値の最大化に、ひいては非常に大きな戦略上の優位性にもつながるに違いない
同社に特徴的なのが、マーケティングや営業上の改善施策にとどまらず、組織文化や人事などの面で改革を断行したこと。
「10点を付けてくれた推奨者のコメントを、壁に貼り出す」ことで、従業員の自信を呼び起こす、など、導入初期には泥臭い取り組みを実施。
「批判者」の評価を付けた顧客には、「48時間以内に電話でフォローする」というアプローチ(“クローズド・ループ”)を徹底したほか、
・従業員への研修:顧客中心の企業文化を浸透
・報酬制度:NPSを経営幹部のボーナスと連動
・組織の再編:取り組みへの責任を明確に
といった大がかりな変革を、CEO自身が旗を振って実行。
「顧客中心」の文化を浸透させていったのが、短期間での成果につながりました。
事例3:ソニー損保
3つ目の事例が、ソニー損保。
自動車保険の保有契約件数でいうと165万件、ダイレクト自動車保険では「14年連続売上No.1」と、日本の業界トップ企業です。
同社がNPSの活用を本格的にスタートしたのは、2015年。
それまで使っていた「顧客満足度」と比べて、業績との相関がより強いと確認できたのがきっかけでした。
さらに調査を進めていくと、「NPSのスコアが高い推奨者ほど、継続率が高くなっている」「好意的な口コミの回数とも正の相関関係がある」という傾向が判明したそう。
つまり、NPSを高めることはリピート率向上と新規獲得数増加につながると、データで判明したということです。
(出典:「NPSは収益に直結する指標だ」ソニー損保の顧客ロイヤルティ戦略の秘密第1回)
「NPSの数字は、収益に直結する」と判明してからは、経営にインパクトのある重要指標となりました。
NPSと継続率との相関が高いという事実は押さえ続けていますので、例えばNPSが何ポイント改善すれば、会社の財務的な指標にどれくらいインパクトがあるかが分かります。
そのことで「この施策を全面展開することで、どれくらい会社の業績に貢献することができるか」ということを試算できますし、やった結果の検証もできるということです。
(「カスタマー・エクスペリエンス戦略 企業の成長を決める“最適な顧客経験”」有薗雄一他)
具体的には、批判者・中立者・推奨者ごとの契約者数の分布と翌年の継続率データを把握。
「この割合が推奨者にシフトしたら、どれくらい翌年の継続件数が増えるか?」を試算しながら、施策を検討しているそう。
施策を実行する際にも、基本的にはA/Bテストを実施します。
いきなり期間とお金をかけて大規模なシステム化をする前に、まずはスピーディーに手づくりでもいいから小さくテストをやってみる。
それでどれくらいNPSの有意差があるか、ということを確認してみます。
DMやステップメールなどで、レスポンス率や継続率を高めるアプローチと共通していますね。
顧客ロイヤルティを高めるためのアクションが、数値で効果検証できるのは画期的と捉えています。
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なぜNPSが、リピート型ビジネスで有効なのか?
前章では、NPSを指標としたPDCAを回していくことによって、継続率やLTVの改善、さらには売上アップとの連動まで確認できた事例をご紹介しました。
ダイレクトマーケティングはじめリピート型のビジネスモデルにおいても、なぜNPSが有効に機能するのでしょうか?
「顧客満足度」との違いは、収益との相関性
NPSは、顧客の信頼や愛着など「ロイヤルティ」を測る指標の1つです。
数あるロイヤルティ指標のなかで、最も有名な「顧客満足度」との違いは、収益との相関性が証明されていることです。
顧客満足度の問題点は、「顧客満足度と実際の顧客行動、そして顧客満足度と企業の成長との間に、ほとんど関連性が見られない」(「ネット・プロモーター経営」より)点。
対してNPSは、多くの実証研究によって、収益性との相関関係が証明されているのが特長です。
先ほど事例として紹介したソニー損保においても、顧客満足度をKPIに「CS活動」をしていた時には、効果測定があまり意識されていなかったこともあり、「いくらまでお金をかけられるか」という議論ができていなかったそう。
NPSを導入することで、「NPSを高めると収益が向上する」という前提で顧客ロイヤルティ施策を展開できることから、従来の「お客様の満足度」と異なり、「ROI」の話に持ち込めるようになったことがNPSの大きな意義だと思います。
(「カスタマーエクスペリエンス戦略」より)
特に定期課金モデルでは、継続率の先行指標に
記事中で取り上げた事例のうち2つ、ヴァージンメディアとソニー損保は、長期的な利用を前提とした継続課金のビジネスモデル。
(Airbnbは、既存顧客による口コミ・紹介が新規獲得にあたって重要なモデル)
定期購入やサブスクリプションなど、顧客の毎月の購入を前提としたビジネスモデルでは、継続率のアップが重要な目標とされます。
各社とも既存顧客に継続してもらおうと、継続のインセンティブやコールセンター等での対応など工夫を凝らしていますが、難しいのが「やめたい」という意思が顕在化した顧客への、場当たり的な対応に終始してしまいがちなこと。
顧客が「続けたい!」と積極的に感じてもらえるよう、先手を打ってコミュニケーションをしていくに際して、その効果が数字で現れるまでには長い期間がかかります。
したがって、「お客様に喜んでもらう」「ロイヤルティを高める」といった目的の活動を、定量的な指標で測定しづらいのが難点でした。
そんななかでNPSを定期的に測定・モニタリングしていれば、顧客ロイヤルティの形成を数字で可視化できますね。
継続率やLTV、売上との連動も、少なくない事例で確認できているので、それらの先行指標となりうるのです。
単品リピート通販をはじめ、「効果を数字で見る」ことに慣れている企業では、NPSはじめ顧客ロイヤルティ指標は逆に馴染みが薄いかもしれません。
だからこそ、業績との連動が証明されリピートの先行指標にもなるNPSは、活用にあたって大きな可能性があると捉えています。
300社以上の支援実績からロイヤル顧客を育てる方法をわかりやすくまとめました。
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