WEBサイトやランディングページなどの改善に有効な、A/Bテスト(スプリットランテスト)。マーケティングの現場で有効な方法や意味を、初心者の方にも分かりやすくお伝えします。間違えてはいけない優先順位や具体的な改善事例を紹介するほか、ツールの選び方や統計の基礎も最後に触れます。
目次
A/B(エービー)テストの方法は?WEBマーケティングの現場から
WEBマーケティングで実践されることの多い、A/Bテスト。
どのような方法で行えばよいでしょうか?
はじめに、担当者が直面する身近な例をもとに、現場でのやり方を解説しましょう。
あなたがECサイトで、有機野菜を販売しているとします。
商品のメリットを訴求するうえで、
・安全性:契約農家から直送して、放射能など安全検査済み
・手軽さ:調理しやすい野菜を選んでお試しセットに、特別レシピ付き
のどちらをメインにするか?2つの案で迷っています。
そのとき勘と経験で「えいや」と決めてしまわずに、2つの仮説を同時に試すのがA/Bテストです。
具体的な方法ですが、Aパターン(安全性訴求)とBパターン(手軽さ訴求)で2つのページを用意します。
そのうえで、アクセスするユーザーがAパターンとBパターン、ランダム(無作為)に表示されるように設定するのです。
たとえば山田さんがアクセスしたときはAパターンが表示、鈴木さんはBパターン、田中さんはAパターン、佐藤さんはBパターン、大西さんはAパターン・・・
とアクセスする人によって、A/Bそれぞれのパターンがランダムに表示されるようにします。
そのうえでコンバージョン率、すなわち「AとBどちらの方が、買ってもらえる確率が高いか?」を比べる、というやり方です。
テストの意味は、仮説検証で“売れる確率”をアップすること
続いて、A/Bテストの結果をもとに、テストの意味を考えていきましょう。
先ほどのテストで、以下の結果が出たとします。
Aパターンだと2%しか買ってもらえませんが、Bパターンでは3%も買ってもらえる、という結果が分かりますね。
「Bパターンの方が、売れやすい」という検証結果が、定量的に判明しました。
したがって、この後はBパターンを採用してマーケティング活動を行っていきます。
このように、2つ以上の仮説をマーケティング施策に落とし込み、同時に実行してその結果を定量的に比較検討することを、A/Bテストといいます。
なお、テストをするのは、必ずしもAパターンとBパターンの2種類ではなくても、3種類以上でも「A/Bテスト」と呼ばれることが多いようです。
「スプリットランテスト」「スプリットテスト」も、同じような意味で使われています。
このようにA/Bテストを活用すれば、会議室のなかで仮説を議論して決めたり、消費者アンケートやグループインタビューといったリサーチだけに頼ったりする必要はありません。
お客様に実験的に販売してみて、その結果で良い方を採用すればよいので、あらかじめ「売れない」リスクを抑えることができます。
つまり、A/Bテストを地道に繰り返していくことで、売れる確率(コンバージョン率)を一歩ずつでも高めていけるのです。
キャッチコピーに写真、ボタンの色・・テストはどこから始めればよい?
これまでA/Bテストの方法と意義をお話ししてきましたが、実際にどのように進めればよいのでしょうか?
広告やLP、メールにチラシやDMなど、さまざまなメディアでA/Bテストは行われてきましたが、優先順位のつけ方について考え方は共通しています。
ステップ1:インパクトの大きな「ファーストビュー」から開始
テストを始めるときに大事なのが、売上やコンバージョンにインパクトの大きな箇所からテストをすること。
ユーザーにあまり見られていない箇所をテストしても、「結果にほとんど差が付かず、テストの意味がなかった」となってしまうからです。
どこが見られているか?というと、「ファーストビュー」。
LPでは、クリックして最初に目に入る、キャッチコピー(見出し)やメインビジュアル(写真)です。
バナー広告やチラシ・DMでも、同じくキャッチコピーとメインビジュアルを複数パターン制作して、テストするのが一般的です。
ある健康食品会社は、「商品の効果効能をアピールした訴求が良いか?」「その成分自体をアピールした訴求が、レスポンスにつながるのか?」を確かめるために、新聞折込チラシでA/Bテストを行いました。
東京23区の新聞折込チラシを各4万部ずつ2パターンでクリエイティブテストを実施したところ、新成分訴求のチラシが、効果効能訴求よりもレスポンスが約2倍になる、という結果になりました。
(参考)「3回のテストで、CPRが約1/3まで改善!健康食品チラシ事例」
この結果を受けて、新成分訴求のチラシをベースに、2回目・3回目とさまざまな要素をテストしています。
過去に行われてきたあらゆるA/Bテストの結果、キャッチコピーやメインビジュアルを変更しただけで、「コンバージョン率が1.5倍に」など大きくアップすることがあると分かっています。
A/Bテストに初めて挑戦するなら、ぜひファーストビューから始めてください。
ステップ2:続いてトライするなら、「オファー」がオススメ
その次に着手するなら、オファー(=顧客の行動を促すために、販売側が提示する魅力的な特典)がお薦めです。
たとえば単品購入をデフォルトにするのか?定期購入を推すのか?
それとも「まとめ買い」でアップセルに誘導するのか?あるいは、お試し(トライアル)商品を用意して、定期購入に引き上げを狙うのか?
“売り方”を変えることによって、コンバージョン率はもちろんリピート率や売上が大きく異なります。
また同じオファーでも、見せ方を変えるだけでレスポンスは大きく変化します。
インフォマーシャル(テレビ通販)では、単純に割引をするよりも、「2個ご購入で、今ならもうひとつプレゼント」とおまけを付ける見せ方にした方が、売れやすい傾向が知られています。
1個あたりの値段は、パターンA・Bともに、実質的には1,330円で変わりありません。
それなのに結果は(中略)、Bのオファーの方がレスポンスが高く、Aと比べて、費用対効果が135%にまで改善されたのです。
(参考:「「割引」vs「おまけ」、レスポンスが高かったのは?」)
このように価格や特典は、お客様が購入の決断をするときに気にかける大事な要素。
LPでは、カートやフォームに誘導する一歩手前の、価格の表示やボタンの周辺に気をつけるとよいでしょう。
チラシやDMなら、申込用のハガキや電話番号(フリーダイヤル)、QRコードなどの周辺に改善ポイントが見つかるかもしれません。
ステップ3:最後に、コンテンツやデザインを最適化
最後に、FVやオファー以外のコンテンツを整備していきましょう。
商品を買ってもらうためには、商品スペックのほか、お客様の声(体験談)や使用シーン、成分・原産地の表示など、購入のあと押しとなる決まった要素がいくつかあります。
(参考)「売れているLP(ランディングページ)の構成は?4つの必須要素」
必須要素が抜け落ちていたり、改善の余地があったりしそうなら、差し替えや追加などしてテストしてみるとよいでしょう。
たとえば、「開発の想い」「成分のこだわり」など企業姿勢を表すコンテンツを充実させて、チラシの費用対効果を大きく改善した事例もあります。
コンテンツの他に、デザインやレイアウトについてもテストする価値があります。
よく聞かれる「ボタンの色」や「マンガを入れる」などは、この段階でテストするとよいでしょう。
ファーストビューで「何を言うか?」、オファーで「どう売るか?」が定まってきたら、コンテンツやデザインのテストによって、コンバージョン率やレスポンス率を高めていきましょう。
通販・ECでは、ネットから紙媒体まで豊富なテスト事例
したがってマーケティングの現場、特に数字で可視化しやすい「通販」や「EC」の分野では、数多くのテストが実践されてきました。
どのような仮説のもとA/Bテストを行って、実際にどんな結果が出たのか?、改善事例を見ていきましょう。
LPやバナーなどWEBのテストで、CPA改善の効果
たとえばスマホ向けのランディングページ(LP)では、デザインの変更だけでコンバージョン率(CVR)が改善することがあります。
「“スライド”や“アコーディオン”は逆効果」や「お客様の声のレイアウトは見やすさを優先で」、「ボタンは“タップしたくなる”カタチに」といった具体的なテクニックが、定量的な実証結果のもとに明らかになっています。
(参考:「スマホ向けLPでCVRアップ実証済み、3つのデザインテクニック」)
他にも、LPやバナー、ステップメールなどのテスト事例の記事は、このブログにもまとめているのでご参考になさってください。
チラシや同梱物など、紙媒体でもテストが可能
A/Bテストはオンラインだけでなく、紙媒体などオフラインでも実行可能です。
特に折込チラシでは、掲載広告とは異なり複数パターンのクリエイティブを展開できるのもあり、数多くのテストがこれまで行われてきました。
テストを行うときは、キャッチコピーや写真、お客様の声など広告をパーツごとに分解して差し替え、「AとBどちらのパターンの方がが強いのか?」を比べます。
ある健康食品通販会社で、A/Bテストを3回くり返して費用対効果を着実に改善していった事例も、テストを綿密に行いたい方にとっては参考になるでしょう。
これからA/Bテストを実践したい、初心者の方へ
最後にこれからA/Bテストを実践したい初心者の方へ、体系的に学ぶためのオススメの本と、実践に使うツールの選び方、身につけておくべき統計の考え方を簡単にお伝えします。
体系的に学ぶためにオススメの本
初心者の方にとっては、「部長、その勘はズレてます! 「A/Bテスト」最強のウェブマーケティングツールで会社の意思決定が変わる」(ダン シロカー他)が、実例も豊富で学びやすいでしょう。
Webサイトでのテストの具体的なノウハウについては、「A/Bテストの教科書」(野口 竜司)にも、よくまとまっています。
紙媒体(チラシ)のテストの方法と仮説の立て方は、「通販マーケティング 売れるチラシ入門」(木村真子)が参考になります。
実践に使うツールの選び方
Webサイトでテストを行うためには、ツールが必須です。
「Googleウェブテスト」や「Optimizely」「Kaizen Platform」など有名どころのほか、種類は無数にあります。
どのツールを選んでよいか?考えるとき、私は以下の記事を参考にしましたので、最後に紹介いたします。
「ABテストの正しい導入方法と、序盤のテストを成功させるまでの5ステップ」
「【2015年版】どっちにする?ABテストツール比較”Optimizely” vs “Kaizen Platform”」
「A/Bテストのためのおすすめツール4選」
私は個人的には、Optimizely(無料版)をもっともよく使っていますし、一部Kaizen PlatformやGoogleウェブテストも活用しています。
「有意差」や「検定」など統計の考え方
現場でテストを始めると、「このテスト結果、誤差の範囲ではないか?」「有意差が出るまで、どれくらい期間がかかるのか?」といった議論に悩まされることもあるでしょう。
そんな時、A/Bテストの結果を判断するために有用なのが、「有意差」や「信頼区間」など統計学についての基礎的な理解です。
この記事では、マーケティングの現場で起こりがちなケースをもとに、「A/Bテストが統計的に正しいか?」を判断する方法を解説。統計学の知識がない「文系」の方でも分かるように、数式なしで説明しているので、よかったらご覧になってください。
いかがでしたか?A/Bテストを重ねるなかで分かってきた知見など、またこのブログでもご紹介したいと思います。