「ROAS」とは、かけた広告費に対して回収できた売上の割合を示す指標で広告の費用対効果を表します。ROASの計算方法や改善方法、単品リピート通販における目安を、初心者の方にもわかりやすく解説します。
通販事業の現場で使われているKPIを新任担当者でも分かるようにまとめました。
KPIの用語説明や使い方だけでなく、通販のビジネスモデルについても解説しています。
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目次
「ROAS」とは?
ROAS(Return on Advertising Spend)は、広告の費用対効果をはかるために使われる指標です。
一般的には、「ロアス」という読み方で発音されることが多いです。
一般的な計算式
ROASは、かけた広告費に対してその広告から購入してくれたお客様の売上がどれくらいか?という広告の費用対効果を表します。
ROAS(%) = 初回購入での売上 ÷ 広告費 × 100
たとえば家具のネット通販で、100万円の広告費をかけて、250万円の売上を獲得できたとします。
このときROASは、250万円÷100万円=250% とされます。
単品通販での計算式
化粧品や健康食品のようにリピート購入を前提とした、単品リピート通販のビジネスモデルについては、上記のようにシンプルに計測できません。
同じように100万円の広告費をかけても、初回売上は100万円以下と広告費を下回る場合がほとんどです。これらの理由は、2回目以降のリピート購入を積み重ねて、広告投資を回収するビジネスモデルであるためです。
したがってROASも、以下のように1年間の累積売上にもとづいて計算します。
(そのため、「年間ROAS」とも呼ばれます。)
ROAS(%) = 初回購入からの累積売上(1年間)÷ 広告費 × 100
なお顧客1人あたりの数字に置き換えると、ROASは次のようにも定義できます。
ROAS(%) = LTV(1年間)÷ CPO × 100
※1年間の累積売上のことを単品通販業界では一般的に「LTV」(=生涯顧客価値)と呼びます。
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ROASの計算方法
ここで通販化粧品のケースをもとに、具体的な計算方法を見ていきましょう。広告で購入してくれた顧客の2回目以降の売上も見て算出するため、先程紹介した以下の式を使って算出します。
ROAS(%) = LTV(1年間)÷ CPO × 100
ある化粧品会社では、初回限定割引として1,980円で広告を出稿。300万円の費用をかけて600件のコンバーション(CV)が出ました。CPOは5,000円です。そのうえで2回目以降には、本品4,000円でリピート購入を促しました。
- 初回限定価格 1,980円
- 広告費 300万円
- CV数 600件
- CPO 5,000円(=300万÷600件)
- 2回目価格 4,000円
このときリピート率が2回目は40%(=初回購入したお客様のうち、2回目も購入した割合が40%)、3回目が30%、4回目が20%、5回目が10%という数字が出ました。
(わかりやすくするため、6回目以降のリピートは無しとしています)
この場合の顧客1人あたりの1年間の累積売上を計算してみましょう。
(1980×600 + 4000円×600×40% + 4000円×600×30% + 4000円×600×20% + 4000円×600×10%) ÷ 600= 5,980円
上記を初回購入からの売上金額としてROASを計算すると、
LTV(1年間)÷ CPO × 100で求められるため、
5,980円(LTV) ÷ 5,000円 (CPO)= 119.6%となります。
このようにして、支払った広告費から売上がどれだけ上がったのかを計算します。
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ROIやCPAとの違い
「投資対効果を測定する」という意味では、ROIやCPAとの違いもよく聞かれるポイントです。この章では、ROASとROI・CPAの違いを解説します。
ROIとは
ROI(Return on Investment)は、広告以外も含めた投資に対してどれだけ”利益”が得られたかという費用対効果を表す指標です。
「ROI(%) = 利益 ÷ 投資額 × 100」の計算式で算出できます。たとえば100万円の投資をして、150万円の利益が生まれたら、ROIは150%です。
また、ROASでは費用対効果を「売上」で測る一方で、ROIでは「利益」で測る点にも違いがあります。
CPAとは
CPA(Cost Per Acquisition)とは、主にWeb広告において、サンプル申し込みや本商品購入などのコンバージョン1件あたりにかかった広告費用(獲得単価)を表します。
「CPA(円) = 広告費用 ÷ コンバージョン数 」の計算式で算出できます。
たとえば100万円の広告費用で20件のコンバージョンがあった場合、CPAは
100万 ÷ 20件 = 5万円 となります。
ROASやROIとは違い、割合(%)ではなく、費用(円)で費用対効果を測定する点がCPAの特徴です。
ROIやCPAとの使い分け
何を確認したいかの目的に応じて使い分けることが重要です。
たとえば、1件のコンバージョンの獲得にかかる費用を知りたい場合にはCPAを見る必要があります。ただし、CPAでは「広告がどの程度売上に貢献しているのか」は判断できないため、この場合にはROIやROASの活用が求められます。
広告から得られた売上、つまり広告の費用対効果を確認する場合はROAS、広告以外も含めた投資に対して得られた利益を確認する場合はROIを使うようにしましょう。
上記のような使い分けによって、マーケティング施策の効果を捉えやすくなります。また、複数の指標を併用することで、多角的な視点での分析が可能となるでしょう。
他にも、CPOやCPR、MR、LTVなど広告の費用対効果をはかる指標はいくつかあります。目的に合わせて使い分けるとよいでしょう。各KPIの定義は、リンク先でも解説していますので、もしご興味あれば併せてご覧ください。
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ROASをマーケティングに役立てるメリット・デメリット
ROASが活用できるようになると、どのようなメリットがあるのでしょうか?また、注意すべきデメリットは何でしょうか?それぞれ解説します。
メリット
ROASを分析するメリットは、「売上」と「広告費」のデータさえあれば、費用対効果を把握できる点です。
たとえば、ROASが100%を超えれば売上と広告費が同等もしくはそれ以上ということになるため、「広告費を回収できている」と判断できます。
反対に下回れば、売上のみでは広告費を回収できなかったということです。ROASが100%以下の広告から改善していく、など次のアクションが判断しやすくなります。
また、複数の広告のROASを比較することで、「どちらの方が費用対効果の面で優れているか」も判断できます。たとえばROASが120%の広告Aと150%の広告Bがある場合、後者の方が費用対効果は高いことがわかります。
このように、ROASが高い広告がわかればそちらに予算を集中させることで、効率的な広告運用が可能となります。
デメリット
デメリットは、ROAS単体で「どのくらいの利益を得られているのか」は判断できない点です。なぜなら、あくまで売上をベースとして、広告の費用対効果を測定しているためです。
たとえば売上が200万円、広告費が100万円で広告が出稿できた場合、ROASは200%です。しかし、広告以外の原価や販管費も含めた合計コストが300万円の場合、実際は100万円の赤字となります。このように、ROASは良くても赤字というケースは少なくありません。
ビジネスで重要なのは利益を残すことです。したがって、ROASだけでなく、ROIなどの指標も併用し、利益がどれくらいかも分析する必要があります。
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単品リピート通販では、どれくらいの数字が目安?
化粧品や健康食品などのD2C・単品リピート通販事業では、ROASはどの程度の数値を目標にすればよいのでしょう?
ネット広告の第一人者、加藤公一レオ氏の著書「<ネット広告&通販の第一人者が明かす>100%確実に売上がアップする最強の仕組み」では、目標の目安を以下のように紹介しています。
企業規模にもよるが、健康食品であれば150%、化粧品であれば100%くらいが目標となる。
今、ネット通販(特に単品リピート通販)でメディアレーション1の一発回収型モデルなんてほぼないと考えたほうがいい。
広告を投資と考えて、回収期間を決めてリスクの度合いを決めましょう。
通販業界の場合、実態として最初からROASが100%を超えるケースは非常に少なくなっています。背景には、
- 競合の増加によって広告のCPAが悪化している
- 多くの通販企業がリピート購入モデルを前提として広告出稿している
点などがあります。一般的には100%を上回ることが理想とされているものの、現状においては下回ることを前提に、改善策を検討することが重要といえます。
もちろん業界・企業ごとや、商品・媒体などによっても目標目安は異なりますが、継続購入が成功の鍵となるD2Cや単品リピート通販事業をされている方は、参考にしてみてください。
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通販業界におけるROASの考え方と実態
前の章では、ROASは100%を下回ることもあるとお伝えしましたが、それでもD2Cや単品リピート通販でROASを見る理由は、1回目から広告投資の回収を狙う「売り切り」の発想ではなく、「リピート販売」モデルが2回目以降の売上で時間をかけて投資回収するという考え方のためです。
広告の費用対効果を管理するため最も一般的に使われる指標は、「CPO」です。しかし、CPOで費用対効果を管理していくと、広告からのCV率を上げるために、新規注文のハードルを下げようとする動きが出てきます。
たとえば、お試し商品を用意してオファーの価格を下げる、プレゼントや割引を付けるといった方法です。
そうなると、CPOは低いがその後リピートしてもらえず売上には貢献していない、といった例も出てきてしまいます。そんな時にKPIとして役立つのが、「ROAS」です。その広告が長期的な売上に結びついているか?を「見える化」します。
また、1つの広告メディアの費用対効果を測るだけでなく、その事業全体の広告費用対効果を測る目的でROASが活用されるケースもあります。背景としては、単体で見てROASが悪くても、総合して見ると他メディアに良い影響をもたらしているケースがあるためです。
たとえば、以下のような状況が挙げられます。
・Web広告と新聞掲載を同時にやったほうが、単体で別の時期に出稿するより合計の獲得件数が多くなるため、結果としてROASが良い
・インフォマーシャルからのCV数は少ないものの、ラジオ広告との同時実施が相乗効果を生んでおり、ラジオ広告からのCV数が増えるため、ROASが良い
こうした状況では、事業全体のROASを計測すると効果的です。なお、計算式は「複数メディアからの売上 ÷ 複数メディア合計の広告費用」となります。
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ROASの改善方法
広告費に対して売上が低い場合には、ROASの改善が必要です。
ROASは「売上÷広告費」で表されるため、ROASを改善するには「売上を上げる」もしくは「広告費を下げる(調整する)」のどちらかになります。さらに売上は、顧客単価 × 顧客数 × 購入回数で決まるため、売上アップにはこの3つのいずれかに対してアプローチします。
そのため、以下4つの観点でROASを改善していきましょう。
- 顧客単価を高める(売上を上げる目的)
- 顧客数を増やす(売上を上げる目的)
- 購入回数を高める(売上を上げる目的)
- 広告費を調整する
それぞれ解説します。
顧客単価を高める
顧客単価は、顧客1人が1回の購買で支払う平均金額のことです。顧客単価が高まれば、同じ広告費でも売上が増加するのでROASの改善につながります。
具体的には顧客が購入しようとしている商品よりも質の高い商品や、合わせて使うことでより効果が期待できるものなどを勧めます。化粧品を例に考えると、ライン使いすると良い関連商品や、より成分が豊富な高品質の商品を勧めて一回の購入金額を増やします。
また、「〇〇円以上で送料無料」で総額を上げたり、「○個でxx%OFF」や「○○と△△がセットでx円お得」などでまとめ買いを促進するのも顧客単価アップにつながります。
顧客単価を高める施策は、下記で詳しく解説していますのでご覧ください。
関連記事:客単価とは?意味や計算方法、上げる施策を専門家が解説
顧客数を増やす
ROASの改善のために「顧客数を増やす」場合は、同じ広告費で獲得できる顧客数を増やす必要があります。CPAを下げて獲得効率を良くしていく施策を行いましょう。
たとえば、
- 広告クリエイティブ(文言・画像など)の改善
- LPの改善
- 入力フォームの最適化
- 配信ターゲットの見直し
などが挙げられます。
具体的な考え方やポイントを知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
参考:記事広告の作り方とは?4つのステップを解説
参考:記事LPの売れるデザインのポイントとは?記事LPの改善事例や作り方を解説
参考:【絶対におさえたい】入力フォーム改善のチェックポイント16個
購入回数を高める
通販企業のようにリピート購入を前提としたビジネスモデルでは、1年間の売上 ÷ 広告でROASを計算します。そのため、1度購入した顧客がその後リピートしてくれれば売上が増え、ROASの改善につながります。
具体的な施策としては、定期コースの導入や、DM・メルマガの配信などです。リピート率を上げるためのポイントや具体的な施策7つを以下の記事で詳しく解説していますので、こちらもご覧ください。
広告費を調整する
売上が変わらなくても広告費を減らすことができれば、ROASは改善します。
具体的に何をするかというと、全体の広告費は変えず、媒体ごとの予算配分の見直しを行うことです。たとえば、同じ広告費をかけているがあまり件数が獲得できない媒体Aと、多くの件数が獲得できる媒体Bがあったとします。この場合、Bの方が獲得効率がよいので、Aで出稿している分の予算を減らしBで出稿することで、全体の獲得件数が増え、ROASの改善が期待できます。
また、2つ目は広告予算そのものを減らして、ROASを改善する方法です。ただし、こちらはROAS改善の目的で行うというより、売上アップの施策に予算を割くために広告予算を減らした結果、ROASが改善するという方法です。
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広告以外の施策を検討するのも重要
前章では、ROASを改善する(=広告の改善により売上を増やす)方法をお伝えしました。
ですが、広告だけが売上を増やす手段ではありません。たとえばオウンドメディアやECサイトによるSEOコンテンツの公開、メールマガジンの配信、SNS運用など、売上を作り出す手段はたくさんあります。
施策 | 特徴 |
---|---|
メルマガ配信 | 濃い情報をコスト抑えて発信できる |
LINE公式アカウントの運用 | 開封率が高い |
SNS運用(Instagram、Twitter) | 双方向のやり取りによるエンゲージメント率上昇が狙える |
SEOコンテンツ | コンテンツ投稿後も継続的な流入を得られる |
「新規獲得が頭打ちになってきた」「新しいメディアを探しているがうまくいかない」などお悩みの場合には、広告以外の施策によって売上アップを図ることも重要です。
状況や商材によっては、広告以外の施策を行う方が、売上や利益率アップの効果が高まるケースもあります。
コストをあまりかけずに集客したい場合はSNS、既存顧客との関係性強化によって売上を増やしたい場合はメルマガ、といったように施策を使い分けると良いでしょう。
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ROASのまとめ
ROASを計算することで、広告が売上にどの程度貢献しているかを判断できます。計算結果を踏まえ、広告の改善や出稿先の変更などを行うことで、より効率的な売上アップにつながります。
ただし、目的によってはROASだけでは不十分なこともあります。ROIやCPAなどの指標と使い分けることで、状況に応じて的確な施策を行えるようにしていきましょう。
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