より高価格の商品を買ってもらい、客単価を高める「アップセル」。マーケティングの現場では、どのように活用すれば効果的なのでしょうか?アップセルを成功させるための3つのポイントを、単品リピート通販業界の事例をもとにまとめました。

300社以上の支援実績をもとに、ロイヤル顧客を育てるCRM施策をまとめました。
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目次
アップセルの意味は?高価格商品を勧める、販売手法
アップセルとは、お客様が買おうとしている商品より、価格が高い商品を勧める販売手法のことです。
販売側としては、アップセルによって顧客単価を高め、収益アップを狙います。
このアップセル、あなたもモノを買う立場では、日常的に体験しているかもしれません。
買い物であなたが、“ついつい”財布を開いてしまう仕組み
あるハンバーガーショップで、ハンバーガーを注文したとします。
その時に店員さんから「大きなサイズが期間限定割引となっていてお得ですが、いかがですか?プラス 60円でご変更いただけます。」と言われました。
これは店員さんが、臨機応変に対応しているのではありません。
顧客単価を高めるために、「Mサイズを注文した顧客には、Lサイズをお得な価格で提案する」とマニュアルで決められているのです。
このように商品を買おうと「お財布を開いている」その瞬間に、「こちらはどうですか?」と提案されると、売り込みと分かっていてもついつい興味を抱いてしまいます。
価格の高い商品でも、顧客から見てメリットがあるように提案されると、受け入れやすくなりますね。
クロスセルとの違いは?
同じように、客単価を高める販売手法として「クロスセル」も知られています。
クロスセルとは、「ある商品を購入したお客様にさらに別の商品を薦める販売手法」のことです。
アップセルとクロスセルは、どのような違いがあるのでしょうか?
先ほどのハンバーガーチェーンの例に、見てみましょう。
ファーストフード店のレジで、ハンバーガーを注文しました。
その時に店員さんから「ポテトもいかがですか?」と薦められるのは、クロスセルの有名な事例です。
(出典:「【クロスセル基礎講座】通販ECの事例から学ぶ、戦略・分析とタイミング」)
つまりクロスセルは、購入してもらった商品(ハンバーガー)とは別の商品(ポテト)を勧めることによって、客単価を上げようとしています。
これに対してアップセルでは、同じ商品(ハンバーガー)でも高価格帯を提案して、お客様にその場で乗り換えてもらいます。
あるいは、2回目の購入時に高価格の商品に切り替えてもらうことを目指します。
※ちなみに、英語では”upselling”が正しいつづりのため、「アップセリング」とも呼ばれます。
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成功企業は、どう取り入れてる?3つのポイント
このアップセル、マーケティング現場ではどのように取り入れていけばよいのでしょうか?
成功のポイントは、商品設計(=何を?)・タイミング(=いつ?)・チャネル(=どこで?)の3つです。
商品設計:「まとめ買い」「定期コース」「上位商品」など
はじめに「何を?(What?)」、すなわちお勧めする商品の設計です。
たとえば「まとめ買い」と言って、「2個セット」や「3ヶ月分」など複数の商品を、割引価格や特典と引き換えに買ってもらう方法があります。
「1個だけなら送料がかかってしまうけど、2個以上で無料」「2個買うと、1個無料でさらにプレゼント」と言われると、2個の方がお得に思えて買いたくなってしまいますね。
「お得な商品なので、1家族様3個まで」といったように限定感を付けるのも、有効です。
他にも「リピート購入者に、上位商品を勧める」や「お試し客を定期購入に引き上げる」など、いくつかのパターンがあります。
タイミング:“お財布の紐が緩んでいる”瞬間を狙う
はじめに、アップセルは「いつ?(When?)」仕掛ければよいでしょうか?
効果的なタイミングはさまざまですが、意外なのは「初回受注時」です。
「初めてのお客様にアップセルなんて!?」と驚かれる方もいるかもしれません。
ですが、商品を初めて買う時は、お客様としてもテンションが上がっているもの。
そのタイミングを逃さず、さりげなく価格のさらに高い商品を勧めると、受け入れてくださるお客様が多いのです。
他にも「お試し期間終了時」や「定期購入継続時」など、いくつか実行しやすいタイミングがあります。
チャネル:コールセンターやDM、ステップメールなどあらゆるチャネルで
最後に、「どこで(Where?)」アップセルを実行すればよいか?です。
一人ひとりのお客様とも、さまざまな接点がありますね。
オフラインでは、DMやカタログ、チラシに電話(コールセンター)。
オンラインでは、メールやLINEにSMS、WEBサイトやアプリなど。
先ほど述べた「初回受注時」という意味では、WEBの「確認画面」や「完了画面」を活用するのも有効です。
顧客接点やチャネルごとに、アップセルが効果的か?を確かめていきましょう。
この3つのポイントですが、ビジネスの現場ではどのように実践されているのでしょうか?
私たちが主に支援している、「単品リピート通販」と呼ばれる業界での事例を交えて、それぞれ解説していきましょう。
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ポイント1:商品設計(What?)
1つ目のポイントは、何を勧めるか?。
高価格帯に誘導するためには、「商品の価格帯の設計」や「勧める順番」にコツがありました。
「まとめ買い」「上位商品」「定期購入」の3つの視点からお伝えします。
まとめ買いを提案する
有効なアップセル施策の1つ目が、「まとめ買い」です。
「2個セット」や「3ヶ月分」など、複数の商品を買ってもらうよう提案します。
「3個セットなら、単品購入と比べて○%割引」といったお得な価格を提示。
「お一人さま2つまで」「1家族さま3個まで」といった限定と併用して、お得感を出すのが一般的です。
私自身の体験ですが、ある健康食品会社の広告を見て商品1個を電話で注文したところ、オペレーターから「お一人さま3箱までとなっておりますが、山内様は3箱のご購入でよろしかったですか?」と聞かれたことがありました。
「1箱の場合ですと、○○円にさらに送料600円がかかってしまうんですが、よろしいですか?」
「○○円は初回特別価格でして、2箱目からは少しお高くなってしまいますが、よろしいですか?」・・・
といったトークで、お得感と合わせてまとめ買いに誘導し、初回受注時の顧客単価を高めようとしているのでしょう。
(参考「1家族さま3個まで」のオファーがアップセルをもたらす理由と、“カリギュラ効果”」
「1個だけなら送料がかかってしまうけど、2個以上で無料」や「2個買うと、1個無料でさらにプレゼント」と言われると、2個の方がお得に思えて買いたくなってしまいますね。
上位商品を薦める
続いて、これまで購入していた商品と比べて、グレードアップした「上位商品」を勧めるのも有効です。
上位商品の代表的な例は、分量が多いタイプです。
「30粒」に対して「60粒」など分量が多い商品や、成分が「100g配合」に対して「200g配合」など、配合量を増やした上位商品を勧める企業もあります。
ある健康食品会社で初めて「100粒入り」(8,310円+送料)を購入したところ、アウトバウンド(電話営業)で、「180粒入り」(13,655円、送料無料)のお徳用ボトルを勧められました。
100粒と180粒があるんですが、100粒は次回から8,310円に送料がかかります。
180粒は通常価格は13,655円ですが、毎月1箱づつのお届けでしたら9,650円でご提供することができます。
このように「送料無料」や「割引」など価格メリットと合わせて提示されると、「どうせ続けるなら180粒を頼もうか」という気持ちになりやすいですね。
(参考「定期コース誘導の鍵は「損をしたくない」という心理?」)
また「有効な成分の含有量を増やした」や「他の有効成分も配合」などを売り文句に、上位商品を高価格で販売する方法もあります。
ある化粧品会社では、「主要な美容成分を約○倍に濃縮」や「○種類の美容成分をぜいたくに配合」したデラックス版の商品を、通常商品の3倍近くの価格で販売しています。
定期コースに「引き上げ」
最後に、お試し申込や単品購入のお客様に定期購入を勧めるのも、アップセルの役割を果たします。
なぜなら、定期購入したお客様は継続率が高まることが知られているため、単品購入と比べて年間単位での顧客単価(LTV)は高まりやすいからです。
たとえば健康食品や化粧品では、「500円トライアルセット」や「無料サンプル」などお試し商品を買ってもらった顧客に、ステップメールやDM、アウトバウンド(電話)などで定期購入を勧める「引き上げ」と呼ばれるコミュニケーションが盛んです。
またお試し商品を初めて注文したお客様に、電話でオペレーターが定期購入を勧める「インバウンド・アップセル」と呼ばれる手法もあります。
同様の原理でネットからの注文では、「完了画面」や「確認画面」を活用してアップセルする方法もとられています。
2つ目のポイント「タイミング」でも、関連した事例を見ていきましょう。
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ポイント2:タイミング(When?)
2つ目のポイントが、タイミング。
特に単品リピート通販では、「初回受注時」「お試し期間終了時」「定期購入継続時」の3つが効果を発揮しやすいと知られています。
初回受注時に、“お試し客”をスムーズに“定期購入”へ
定期購入や月額課金など長期的なお付き合いを前提としたビ ジネスでも、1回目の購入時点でのアップセルが有効なケースが多々あります。
ある健康食品通販会社では、お試し商品を購入しようと注文の電話をかけたお客様に、「お電話いただいたお客様限定で」と定期コースをお得な価格で勧めることで、高確率で「定期引き上げ」に成功しています。
広告でメインに掲載しているのは、1,000円の「お試し10日分」。
これも私自身が電話をかけてみたのですが、オペレーターに名前や住所など答えていきます。
最後にオペレータから言われたのは、「今回は10日分ということでわずかな量でございますので、良さを実感してもらうのは難しいと思います」という意外な言葉、たたみかけるようにセールストークが続きます。
健康食品ですので、飲み心地とかそういった部分で10日分を見ていただくとしまして、継続していただけるようでしたら、定期コースをお薦めしております。
お値段は初回は半額1,500円で1ヶ月分、わずか500円の違いで、1ヶ月分ご注文いただけますので。
2ヶ月目からも通常より500円安くなっていますし、また定期コースはいつでもストップできます。
(参考「インバウンド・アップセル」とは?お試し商品から引き上げる、電話トークの秘密
お客様にとっては500円だけ追加で出せば、お得に購入できて効果を期待できるので、この提案には乗りやすいでしょう。
商品を購入しようとアクションを起こしたその時は、まさに「お財布が開いている」タイミング。
そこで、お客様にとってもお得感が感じられるような提案をしたら、アップセルが成功しやすいのです。
お試し期間終了時(2回目購入の検討中)も、反応しやすい
続いては、1回目に購入した商品(特にお試し商品や半額キャンペーンなど)を使い終わり、2回目の購入を検討するタイミングです。
たとえば1ヶ月分の商品なら「25日後にDMを発送する」、10日分のお試しサンプルなら「7日後にメールが届く」といったように、初回購入から期間を決めて販促のプッシュがされるように、 CRMを設計します。
「良さそうなので、続けようかな」と思っているお客様には、「2回目には、通常で購入するよりは定期コースがお得です」といったお得感のある提案があると、アップセルが成功しやすいでしょう。
たとえば化粧品のトライアルセットを購入したお客様について、アップセル率(引き上げ率)を改善するためにはどうすればよいでしょうか?
ポイントは、初回購入日から経過した日数とそれにともなうお客様の心理状態に合わせて、何を伝えるか?を明確に分けることです。
のDMを送る場合の設計図.png)
購入から3ヶ月間に、3回(または4回)のDMを送る場合の設計図
たとえば1回目のDMは、商品が切れる頃に送ります。
商品を使った直後で購入意欲も高いお客様に反応してもらえるよう、商品の特長や成分の効果を伝えます。
対照的に3通目のDMを送る頃、2ヶ月目以降には時間も経って、商品への期待値は下がり、なかには購入したことを忘れているお客様もいるでしょう。
そこで、「70%割引」など“お得感”を強調した内容にします。
(参考「お試し購入からの“引き上げDM”、顧客心理に合わせた3ステップ設計とは?」
このように初回購入からの日数に合わせて、お客様の心理状況に寄り添った内容を訴求するとよいでしょう。
定期顧客には、まとめ買いや年間契約をオススメ
3つ目が、定期コースなどで商品をリピートしているお客様です。
たとえば商品にチラシを同梱して、上位商品への切り替えを勧めます。
「成分の配合量が○%アップ」や「○○も配合」といった商品を、「プレミアム」「デラックス版」といった名称を付けて薦めます。
また、「3回まとめて注文したら」や「年間契約したら」もっとお得に購入できます、と定期顧客に勧めてLTVを高める手法もあります。
既に定期コースで購入いただいているお客様に、「年間契約をしていただければ、割引率○%」や「最大○円お買い得」といった価格メリットを訴求。
1年間(12ヶ月分)や半年間(6ヶ月分)など、長期での購入への乗り換えを案内します。
商品同梱チラシやメールでの告知で、定期顧客の数%が「年間定期」に引き上がる企業もあるとのことです。
(参考「定期会員の継続回数を一気に高める、「年間定期コース」という販売テクニック」
商品を愛用しているお客様なら、「もっと効果的に」「お得に」購入できる方法があれば、提案にも応じてもらいやすいでしょう。
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ポイント3:チャネル(Where?)
3つ目のポイントは、どこでアップセルを仕掛けるか?(Wheret?)。
オフラインとオンライン(デジタル)の2つのチャネルに分けて解説します。
オフライン
紙媒体ではDM(ダイレクトメール)の郵送やコールセンターでの電話トーク、商品お届け時に同梱するチラシやカタログが、主なチャネルです。
これまで単品通販企業が強力な武器としてきたのが、コールセンターです。
ポイント1の「初回購入時」でお伝えしたように、お試し商品を買おうと電話をかけた顧客を、まとめ買いや定期コースに誘導する「インバウンド」でのアップセルが、多くの企業で収益を作り出してきました。
また商品がなくなるタイミングを狙い、こちらから電話をかける「アウトバウンド」でのアップセルも効果を発揮してきました。
紙媒体では、商品お届け時に同梱するチラシやパンフレット(=同梱物)は必ず手に取られるので、充実させるとよいでしょう。
新規顧客には圧着ハガキ形式で連続してDM(ダイレクトメール)を送ることで、定期購入への引き上げ率を高めるのも一般的です。

お試し客に、定期購入を促すハガキの例
(参考)「お試し購入からの“引き上げDM”、顧客心理に合わせた3ステップ設計とは?
オンライン(デジタル)
オンラインでは、今もメールをCRMの主軸に据えている企業が多いでしょう。
アップセルにあたって有効なのが、一斉送信で送る「メールマガジン(メルマガ)」よりは「ステップメール(フォローメール)」です。
たとえばお試し客を定期購入に引き上げるためには、先ほどのDMの例と原理は同じです。
「お試し購入から10日後」など顧客のアクションに合わせ、「続けて買いたくなる」ための情報を連続して送っていきます。
(参考)「スマホからの引き上げ率が約3%アップ!フォローメール成功方程式」

定期引き上げのためのステップメールの構成例
最近ではメールだけでなく、LINEやSMS、アプリなどを活用する企業も増えてきました。
マーケティングオートメーション(MA)ツールを活用すれば、適切なタイミングとチャネルでアップセルを働きかけやすいでしょう。
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最後に:ご自身のビジネスで応用する方に
この記事ではアップセルの意味から始まり、効果的な3つのポイント、商品設計やタイミング、チャネルについて解説してきました。
テストと実践で、あなたの業界で当てはまる方法論を
それぞれのポイントで紹介した方法論は、化粧品や健康食品など単品リピート通販での成功事例をもとに書いています。
この他にも、現場で有効だったアップセルの事例やノウハウを記事にまとめていますので、よければご覧ください。
もちろん、あなたのビジネスにまた違った答えが出るかもしれません。
現場でテストや実践をして、あなたのビジネスならではのアップセルが“効きやすい”ポイントをぜひ見つけていくために、この記事がヒントになれば嬉しく思っています。
お客様とWin-Winの関係構築を
企業にとっては収益力強化のために行うアップセルですが、うまくいっている企業ほど、お客様にとってメリットが生まれるように設計をしています。
決して「押し売り」ではなく、価格やベネフィットなどの面でより魅力的に映るよう、商品の設計や売り方のトークを作り込んでいるのです。
お客様に商品の利用により強くコミットしていただき、Win-Winの関係を築いていくため、アップセルという武器をぜひご活用ください。
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