2010年代後半から、日本でもベンチャーや広告マーケティング業界を中心に「ブーム」といえる存在になった「D2C」(ディートゥーシー)。D2Cを名乗るブランドは増えたものの、現時点では事業規模が小さく、「スタートアップ」初期で事業性を確立できていない企業も少なくない印象です。そんな数あるD2C企業のなかでも、創業から数年で「月商1億円以上」まで売上を成長させている事例や、「10億円以上の資金調達」など事業のスケールを計画して積極的に投資しているケースなど、3社をピックアップしました。
D2C事業の現場で使われているKPIを新任担当者でも分かるようにまとめました。
KPIの用語説明や使い方だけでなく、D2Cのビジネスモデルについても解説しています。
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目次
事例1:メンズ化粧品のバルクオムは、20億円以上の資金調達でグローバル展開も
1つ目の事例は、株式会社バルクオム。
洗顔料や化粧水、シャンプーなど、男性向け化粧品のブランド「BULK HOMME(バルクオム)」を展開しています。
創業者の野口卓也氏は、ITベンチャー等複数の企業立ち上げを経て、2013年にメンズスキンケア事業を開始しました。
同社WEBサイトより
現在、同社の売上は非開示ですが、2017年の実績は6億円。2018年には見込みで10億円の大台に達していたようです。
直近の決算では、2020年9月期の売上高が前期比2倍で推移。
当期純利益が5,600万円と、2019年9月期までの成長投資による赤字から、黒字転換を実現したそうです。
同社の売上の8割を支えるのが、オンラインでの販売。
なかでも、自社ECサイトからの定期購入を主体とした、サブスクリプション型のビジネスモデルです。
オンライン売上の6割を、サブスクリプション会員様に支えていただいています。
アクティブな会員数については非公開ですが、累計で20万人以上がサブスクリプションサービスに加入しています。年間の平均注文回数は、6.5回です。(「『世界No.1メンズスキンケアブランドに』。売上2倍成長のバルクオムが見据えるグローバル戦略とは【野口社長インタビュー】」より)
・2018年12月、総額約5億円の資金調達を発表
・2020年には総額で約15億円の増資や融資を受ける
など、大規模な資金調達が注目を集めてきましたが、これらの資金を原資としてマーケティングにも積極的に投資をしてきたようです。
2019年までは自社を「デジタルマーケティングの会社」と称していたほど、Google・LINE・Facebookなどあらゆるプラットフォームにおいて、ネット広告からの新規顧客獲得に注力。
現在はマスマーケティングにも幅を広げ、20年には木村拓哉氏を起用したTVCMを放映して大きな反響を呼びました。
サブスクリプションの事業モデルで重要なのは、LTV(顧客生涯価値)をアップすること。
バルクオムでは継続回数を伸ばすために、コールセンターでの解約抑止やLINE公式アカウントの活用に取り組むなど、いわゆる「単品リピート通販」と呼ばれる事業モデルをベースに成長してきたように見受けられます。
台湾や中国などグローバル展開も始め、「世界No.1のメンズスキンケアブランド」を目指して、成長を続けています。
日本の「D2C」スタートアップで代表的な企業です。
D2C事業の現場で使われているKPIを新任担当者でも分かるようにまとめました。
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事例2:小柄女性向けアパレルのCOHINAは、月商1億円まで成長
2つ目の事例は、株式会社newn。
女性向けアパレルブランドの「COHINA(コヒナ)」を運営しています。
女性向けキュレーションメディア「MERY」を運営していた株式会社ペロリの創業者、中川綾太郎氏などにより、2018年1月に立ち上げられました。
COHINAがターゲットとしてフォーカスするのは、身長155cm以下の小柄な女性。
「サイズが小さいと、似合う服を探しにくい」という明確な課題を解決する商品が顧客の心をつかみ成長してきました。
同社WEBサイト
2018年1月にスタートした同ブランドですが、2019年3月には、月商5,000万円を突破。
2021年には、創業から3年間で月商1億円超へと急成長しました。
テレビCMの放送や東京ガールズコレクションへの出場など、大規模なマーケティング施策も目立ちますが、創業当時から変わらず力を入れるのは、SNS上での顧客との対話だそうです。
フォロワー数17万人(2021年2月時点)を突破したInstagramでは、身長155cm以下のスタッフが出演するインスタライブ配信を、365日休むことなく実施。
顧客からの悩み相談に対応するなど、ユーザーとのコミュニケーションを積極的に取っています。
インスタライブ上で届いた意見から商品化に至った例もあり、フォントやカラーバリエーションを顧客とデザインしたサーマルTシャツは30分で完売した。
ブランドを立ち上げた頃はライブの視聴者が1人という時もあったが、現在のIGTVのアーカイヴは1本あたり1万人ほどが視聴している。
こうした地道な対話もあってか、「リピート率は50%とアパレル業界の平均を上回る高水準」。
NPS(=「まわりの人にも勧めたいと思うか?」を指し示すスコアとして顧客ロイヤルティのKPIとして活用される)も高い数値だそうです。
既存顧客をはじめとしたユーザーの「ファン化」が、急成長の原動力となっていることがわかります。
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事例3:サプリ定期販売メインのKINSは、3億円の資金調達で月商1億円を目指す
3つめの事例は、株式会社KINSです。
歯科医師を経て医療法人の理事長を務めていた下川譲氏が、2018年に設立。
体内の菌の状態を最適に保つ「菌ケア」を掲げたサプリメントを、ECでの定期購入メインで販売しています。
筆者も購入したことがありますが、単に製品を販売するのではなく、
・検査:キットに入ったシールを1分間肌に貼って、菌の数や割合を数値化(東京大学発のベンチャー企業と協業して提供)
・コンシェルジュ:LINEでユーザーからの質問にエビデンスを元に回答(皮膚科医の監修)
など、一人ひとりに合った「菌ケア」を目指しているのが印象的でした。
同社WEBサイトより
KINSの売上は、2020年に「1000%成長」と約10倍に伸びたそうです。
定期購入メインの売り方で、1ヶ月で2,000人の新規ユーザーを獲得するまでに成長。
さらに「1年後の継続率が約50%」と解約率(チャーンレート)も低いことで、累積のアクティブ顧客も増加しての結果です。
同社の下川社長の講演によると、「事業開始当初は、ネット広告から新規顧客を獲得しようとして上手くいかなかった」そう。
インスタライブやオフラインのセミナーを開催するなど、顧客とのコミュニケーションを深めてことが転機となりました。
たまたま、セミナーにご参加いただいた人の中に有名な美容家の方がいらっしゃって「KINS」のファンになってくれました。
そこから「まだ誰も知らないけれど、イケてる人が使っているブランド」として認知され始め、ファンがファンを呼んでくれるようなイベントに育っていきました。
(&JAFCO「『菌ケア』で慢性疾患を予防 無謀な挑戦からスタートしたKINSの目指す世界」より)
ファンになってくれた美容家や芸能人のインフルエンサーの方々が、自然にInstagramで宣伝してくれるようになり、その中には数百万人フォロワーを抱える方もいたという幸運もあったそうです。
インスタライブだけではなく、「解約者には電話でインタビューする」「顧客エンゲージメント指標として、NPSを測定する」など、顧客と対話していく姿勢も印象的でした。
2020年には、3億円の資金調達が完了したことを報告。
「2021年末までに月商1億円達成」を目指しています。
D2Cブランドというと、海外ではアメリカのWarby Parker(メガネ)やCasper(マットレス寝具)、Everlane(アパレル)など大規模に事業展開しているユニコーン企業の事例も見られますが、日本では現時点でこれといった大きな成功事例は思い浮かびにくいかもしれません。
そんな中、この記事でご紹介したような「20億円以上の資金調達」「月商1億円」「3億円の資金調達で月商1億円」といった実績を上げる企業も、少しずつ現れてきました。
今回はご紹介した3社以外にも、D2Cの成長企業は他にも存在します。
・FABRIC TOKYO(オーダーメイドスーツ):約13.5億円の資金調達
・FUJIMI(パーソナライズスキンケア):月商2億円規模でポーラ・オルビスHDが38億円で買収
・BASE FOOD(完全食のサブスク型EC):約4億円の資金調達
このような事例についても、改めてご紹介できればと考えています。
D2C事業の現場で使われているKPIを新任担当者でも分かるようにまとめました。
KPIの用語説明や使い方だけでなく、D2Cのビジネスモデルについても解説しています。
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