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ZOZOTOWNのマーケティングが、心理学や行動経済学からことごとく合理的で、「さすが!」と唸った件

アパレルで最大規模のECサイトとして有名な、ZOZOTOWN。
同サイトは「取扱高は1919億円で、前年比約140%」(17年3月期)、運営するスタートトゥデイ社も「時価総額が1兆円を突破」と急成長を続けていますが、そのマーケティング手法を分析していくと、顧客心理に即して購買を促す仕掛けが、随所に埋め込まれていることに気づきます。
私自身も顧客として同サイトから買い物した体験ももとに、心理学や行動経済学の観点も交えまとめました。

事例1:「割引クーポン」メールに、反応してしまう理由

 

ZOZOTOWNの既存顧客へのCRMといえば、有名なのが「クーポン」です。

 

1時間あたり140種類以上のパーソナライズドメールを自動的に出しわけているという。
ダイレクトマーケティングに取り組む以前の3年前は、ここの売上はだいたい25億円程度だったが、それが去年の売上では8倍の200億にまで拡大し、ダイレクトマーケティング経由の売り上げは非常に大きな位置を占めるようになっている。
(「広告をやめたZOZOTOWNの新規顧客獲得&CRM戦略/デジタルで省力化できた労力を価値づくりへ【アドテック九州2014】」(Markezine無料会員限定)より)

 

と収益の源泉となってきたCRM施策ですが、なかでも目立つのがクーポン券の配布です。

 

 

「3,000円分の割引クーポン」に、心は動かされる?

 

同サイトで一度でも買い物をしたことがある方なら、「3,000円分の割引クーポンが発行されました」といった件名のメールが届いたことがあるはず。

 

「¥3.000 スペシャルクーポンが発行されました」と届いたメール

「¥3.000 スペシャルクーポンが発行されました」と届いたメール

 

過去に購入したお気に入りのブランドが「割引で購入できる」と分かると、「本日限定 2/24(土)23:59まで」と相まって、反射的にサイトを覗いてしまう気持ちも分かりますね。

 

そんなことを調べながら、ふと浮かんだのが「なぜシンプルに“本日限定で割引しています”ではないのだろう?」という疑問。
至った考えが、心理学で言われる「保有効果」が働いているのでは?でした。

 

 

「クーポン券>割引」を、保有効果で説明すると・・

 

保有効果を簡単に説明すると、「ヒトは一度自分のモノになると、それを手放すときには、手に入れたとき以上の価値をつける」という傾向のことです。
(参考:「「返金保証」への申込み者が少ないワケ」)

 

単品リピート通販でも、「金券」や「クーポン券」の活用はよく知られていますね。
クーポン券を活用すると、「割引」という特典を受ける権利が、あたかも自分のモノになった感覚を抱きます。

 

そこで、単純に「割引します」というメッセージが提示されるよりも、「クーポンでお得に買い物できる権利を失いたくない」という気持ちが働き、心を動かされやすいのでしょう。

 

ZOZOTOWNのメールやLINEを使った販促については、「240種類以上のセグメント」や「期限を切ったタイムリーな通知」など、テクノロジーや仕組みの面がよく解説されています。
もちろんこれらも重要な視点ですが、保有効果のような心理効果を活用していること、そして従来オフラインで「モノ」として手渡されていたクーポン券を、オンラインで違和感なく展開していることも、注目したいポイントです。

 

 

事例2:「ZOZOユースド」「買い替え割」のウラの意図

 

続いて紹介するのが、洋服の買取サービス「ZOZOユーズド」です。

 

事業を展開するクラウンジュエル社長 宮澤高浩氏によると、「2017年度は前年比4割増の売上高180億円を見込む」さらに将来的には「500億円を目指したい」(出典:「週刊東洋経済」2017年9月23日号)と、古着の流通マーケットとして大きな規模感で成長していることが分かります。

 

 

新品の服を買ってもらうため、古い服を「下取り」

 

一方、ZOZOユーズド事業単体として「利益率をさらに高めていこうとは考えていない」(宮澤社長)とのこと。

 

新品を買いたいときにタンスの中にある服を手軽に入れ替えてほしいと思って始めた。(中略)
買い取り金額を高くして、いかにゾゾタウンでユーザーに気持ちよく買い物をしてもらうかを考えている。(中略)
新品購入を支援するツールとしてゾゾユーズドがある。

 

新品の洋服を買おうと思っても、クローゼットにたくさんの服が残っていると、「まだ着れる服がある」「もったいない・・」という気持ちが働き、躊躇してしまうものですね。

 

そこで、ZOZOTOWNで力を入れるのが新品購入時の「下取り」

 

顧客にとっては、「商品と一緒に届く買取用バッグに洋服を入れるだけ!」と、フリマなどと違ってわざわざ出品せずに、送り返すだけという簡単さがメリットです。

 

 

なぜ「買い替え割」は、ヒットしたのか?

 

特に、2016年11月から導入した「買い替え割」は、過去に購入した商品にその場で買い取り金額を提示し、新品の価格から値引きする仕組みです。
今では、「ZOZOユーズドで仕入れる商品のうち、4割が買い替え割から」までに成長しているそうです。

 

下取りサービス「買い替え割」

下取りサービス「買い替え割」

 

下取りが集客効果を発揮したというと、思い出されるのがイトーヨーカードー。
リーマンショック後の不況期に、「衣料品のお買い上げ金額5,000円ごとに不要になった衣類を1点1,000円で下取り」というセールが爆発的な売上を上げました。

 

いま各家庭にはたくさんのモノがあふれていて、新しい商品はほしいけれど、これ以上モノを買って増やすことにも抵抗があるという心理状態にある人が多いと思います。
その時、下取りということで、不要なものがいくらかでもお金になるなら、喜んで不要品を持ってきて、そこで得たお金を足しにして、買物をしてくれるはずだ。

 

セブンイレブンの創業者、鈴木敏文氏の推測した顧客心理が当たり、単なる割引以上の効果を得たそうです。
(参考:「『保有効果』による心の揺らぎが、購入のトリガーに」)

 

 

カートや完了画面で、「ついで」に買い取りへ誘導

 

そんな下取りの効果ですが、ZOZOTOWNでは買い物の「ついで」に差し挟むことで、そのパワーを最大限に発揮させているように見えました。
「買い替え割」は購入完了の一歩手前、カートでの表示で「カゴ落ち」を防ぐ貢献をしていそうです。

 

また購入完了後の完了画面(サンクスページ)でも、「ZOZOユースド」へのリンクを表示。
詳細説明の画面へとたどり、スマホでもわずか2~3回タップするだけで申し込める導線になっていました。
同じ原理で、今度はリピート購入の促進にポジティブに働くでしょう。

 

完了画面から、買い取りサービスに申し込みするフロー

完了画面から、買い取りサービスに申し込みするフロー

 

購入を決めた直後である、確認画面や完了画面でのアップセルやクロスセルが有効であることは、単品リピート通販でも知られています。

 

下取りを購入の後押しとして設置すること、それらをカートや完了画面など「ついで」の導線に埋め込むこと。
それらが連動して、収益をさらに伸ばす仕組みとして働いているはずです。

 

 

事例3:「ツケ払い」は、なぜ強烈な販促効果を生んだのか?

 

3つ目が、2016年11月に開始した「ツケ払い」。
顧客が商品代金を注文時に決済せずに、支払期限の2ヶ月後までに後払いするというサービスです。

 

顧客から絶大な支持を得た「ツケ払い」

顧客から絶大な支持を得た「ツケ払い」

 

 

「取扱高38.3%増加」を生んだ背景には?

 

「ツケ払い」の効果は公表されていませんが、スタートトゥデイ社の決算資料から「数十億単位の額が『ツケ払い』で支払われた」と推定した記事も。
(参考:「ZOZOTOWN絶好調の背景に『ツケ払い』あり? – ゆとりずむ」

 

同サービスを開始した2017年3Qには、取扱高が38.3%増加。
「営業利益も3Q累計ベースで64%アップ」とさらなる急成長を遂げ、社会的な話題にもなったのは覚えてる方もいらっしゃるでしょう。

 

このツケ払い、なぜこれほどまでに購買行動を刺激するのでしょうか?
読み解く鍵となるのが、行動経済学で言う「時間選好」と「損失回避」という2つの概念です。

 

 

「時間選好」と「損失回避」から、支払い先延ばしのメリットを探る

 

1つ目の「時間選好」とは、簡単に言ってしまうと、「今1万円をもらうか?」それとも、「1ヶ月後に1万円をもらうか?」では、ほとんどが「今」を選ぶということ。

 

時間が経ってから利益を得るより、「今」に人間は反応してしまいますが、今度は逆に「今1万円を払うか?」「1ヶ月後に払うか?」で比べてみるとどうでしょう?

 

1ヶ月後の方が良いのは当たり前なのですが、「1ヶ月後」と「今」での主観的な感じ方の差は、損失の方がより大きい。
つまり損失が「先延ばし」になった時の嬉しさは、利益を「今もらえる」場合と比べてもさらに大きいのです

 

これが2つ目の「損失回避」という概念です

 

 

「今払わなくていい」が、強烈な販促効果に

 

「お金を支払う」という行為には、少なからず精神的な痛みが伴うもの。
ですが、この痛みが「2ヶ月後」など先延ばしになると、主観的な痛みが減ることが、実験結果からも分かっています。

 

「時間選好」と「損失回避」の2つの原理にかなっているからこそ、このツケ払いは決済という地味な分野にもかかわらず、強烈な販促効果を発揮するのでしょう
(さらにご興味のある方向けに、この2つをまとめると「双曲割引」という概念で整理できます。)

 

顧客が「今払わなくてよい」という条件だと、購買意欲が高まることは、販売やマーケティングに携わられる方なら感覚的に理解されているはずです。
この原理を踏まえたうえで「ツケ払い」という秀逸なネーミングを授け、クレジットカードを持たない若年層に向けて提供したことが、大ヒットの理由と私は推測しています。

 

 

おまけ:「おまかせ定期便」は、サブスクリプションやIoTだけではない

 

このように、人間心理を理解したさまざまな販促やサービスを展開するZOZOTOWNですが、2018年2月に新たな試みをリリースしました。

 

「おまかせ定期便」と言って、「あなたの好みと体型データを分析して、似合うコーディネートを定期的にお届けします」というサービス。
「ZOZOTOWNが5~10点の洋服をセレクト」→「試着セットとして無料でお届け」→「顧客が気に入った商品だけを選んで着る」という流れです。

 

2018年に始まった「おまかせ定期便」

2018年に始まった「おまかせ定期便」


 

アパレルという商材で定期便(サブスクリプション)モデルに乗り出した点や、IoT・ウェアラブルとして注目を浴びる「ZOZOSUIT」との連携でレコメンドの精度を高める点などが話題を呼んでいましたが、私が心理学の観点から着目したのが、「返品は簡単!」というコピーでした。

 

 

「不要なものだけ返品」で、保有効果が働く

 

サービスページには、クレジットカードの登録を前提として、「一度洋服が顧客の元に届いて、不要なものだけ返品する」という仕組みが記載されています。

 

気に入った商品以外は同じ箱で送り返すだけ
商品到着から7日間以内に、買わない商品を返品してください。
ご自宅でゆっくり試着して、手元に残した商品だけを購入できます。

 

このような商品の受け取り方、事例1で説明した「保有効果」が働きやすくなっているはずです。

 

ひとたび商品を手元に置くと、その価値は単にWEBサイトやアプリで見ているときよりも高く感じられやすくなるもの。
リアルな店舗で店員が試着を勧めたり、古くはペルシャの商人が購入前の絨毯(じゅうたん)を持ち帰って使ってもらったりするのと、同じ原理ですね。

 

 

ビジネスモデルの選び方やテクノロジーの活用という観点で「ZOZOTOWNならでは!」という解を作り出したうえで、心理学や行動経済学の観点からも合理的な、顧客の心理に沿ったサービス設計にしていることに、素直に「さすが!」と唸ってしまいました。

 

 

自身の顧客体験から、マーケターの意図を読み解く

 

今回の記事は、自身のユーザーとしての体験やWEB・雑誌など公開情報をもとに書かせたいただいたので、「事業のリアルな戦略や、施策の仮説と合っているか?」は定かではありません。

 

ですが、ZOZOTOWNという秀逸なマーケティングを実行しているサービスを体験すること、そこから意図を読み解くことは、あなたのマーケティング力を高めるためにきっと役立つはずです。

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