2010年代後半から、日本でもサブスクリプション型の事業モデルをスタートする企業が増えています。それ以前から取り組んでいた企業では、サブスク型事業を収益の柱として売上を伸ばし、株価アップなど企業価値の向上を実現している事例も出てきました。BtoC向けの定期購入型ECやBtoB主体のSaaSモデルなど、広い意味でのサブスクリプション型事業に取り組む企業を5つピックアップしました。
LINEで解約抑止を自動化している通販企業の事例をまとめました。
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目次
事例1:オイシックスは、定期会員42万人・売上1000億円
1社目は、オイシックス・ラ・大地株式会社。
2000年に東京で設立され、食材の定期宅配型ECを主な事業としている企業です。
創業からのサービス「Oisix」に加え、2017年に「大地を守る会」と、18年に「らでぃっしゅぼーや」と、他に食材宅配事業を行なっていた企業と経営統合。
大規模なM&Aが、注目を集めました。
売上は過去3年間で、399.8億円(2018年3月期)から1000.6億円(21年3月期)へ、2.5倍以上に成長。
IRニュース「2021年3月期 決算説明資料」より
株価も1,800円前後(18年12月)から3,400円台(21年6月)へと、1.8倍以上にアップしています。
それぞれの事業・ブランドについて、IR資料で開示されているKPI(いずれも21年3月期から)をまとめました。
オイシックス・ラ・大地株式会社のKPI (2021年3月期)
事業・ブランド | Oisix | 大地を守る会 | らでぃっしゅぼーや |
---|---|---|---|
会員数 | 308,899人 | 45,307人 | 62,751人 |
ARPU | 13,042円 | 23,520円 | 20,259円 |
売上 | 498.6億円 | 139.7億円 | 177.0億円 |
定期会員は、合計して約42万人に。
「サブスクリプション型のマーケティングに精通」していることを強みとして、IR資料でもうたっていたのが印象に残りました。
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事例2:マネーフォワードは、BtoB・C両方で年間71億円の積み上げ型収益
2社目は、株式会社マネーフォワードです。
個人向けには、家計簿や資産管理などに使われるアプリ「マネーフォワード ME」などを提供。
広告収入のほか、月額500円または年間5,000円でプレミアム機能を使う有料会員が30万人以上(2021年4月末時点)いるそうです。
法人向けには、「マネーフォワード クラウド会計」をはじめ、経理や人事労務などバックオフィスを効率化するサポート。
こちらも月額2,980円から提供する、SaaS型のサービスです。
売上は過去3年間で、29億円(2017年11月期)から113.2億円(2019年11月期)へ、約4倍に成長。
そのうち“積み上げ型収益”を示す「SaaS ARR」は82.5億円と、サブスクリプション型のストック収入を継続的に成長させてきました。
「2020年11月期 通期決算説明資料」より
株価も、2018年12月の1,600円前後から、6,500円前後(2021年6月)と約4倍以上にアップしています。
法人向け・個人向けそれぞれの事業について、IR資料で開示されているKPI(いずれも20年11月期から)をまとめました。
株式会社マネーフォワードのKPI (2020年11月期)
事業 | Money Forward Business | Money Forward Home (プレミアム課金収入) |
---|---|---|
社数・会員数 | 14万件 | 28万件 |
ARPA | 77,189円 | 記載なし |
売上 | 22.0億円 | 3.6億円 |
※法人は77,189円に対して、個人事業主は11,821円
主力の法人向け事業では、解約率(課金顧客数ベース)が0.8%と低く、契約した顧客企業が定着する事業モデルに。
社会保険や確定申告など、サービスラインナップや機能の充実が功を奏し、課金顧客あたり売上高(ARPA)も上昇傾向とのことです。
これによって既存顧客からのストック収入が拡大しているほか、新規顧客の獲得も相まって、売上の急激な伸びを実現しているようです。
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事例3:ライフネット生命は、保険料が年間換算で187億円に
3社目は、ライフネット生命保険株式会社です。
子育て世代をターゲットに、インターネット専門で生命保険や医療保険などを提供しています。
保険料の支払いは、毎月一定額。
サブスクリプション型の収益モデルと言ってよいでしょう。
生命保険という業種柄、財務指標としてメインで開示されているのはいわゆる「売上」ではなく、保有している契約から支払われる1年間の保険料(=「保有契約年換算保険料」)でしたが、111.4億円(2018年3月期)から187.1億円(21年3月期)と3年間で1.7倍に成長。
IRライブラリー「2021年3月期 決算説明会資料」より
株価も、550円前後(2018年12月)から、1,300円前後(2021年6月)と2.4倍以上にアップしています。
IR資料で開示されているKPI(いずれも21年3月期)をまとめました。
ライフネット生命保険株式会社のKPI (2021年3月期)
保有契約件数 | 439,945件 |
---|---|
1契約あたり年換算金額 | 42,536円 |
保有契約年換算保険料 | 187.1億円 |
生命保険は、「契約期間が長期にわたるため、契約獲得と会計上の利益が実現するまでタイムラグが生じる」という事業構造です。
そのため成長のための先行投資として、20年度は67.1億円の営業費用を投下。
新契約1件当たり営業費用66,000円をかけて、約10万件の新契約を獲得したそうです。
・短期での損益だけでなく、長期的な収益性を重視
・保有している契約から発生すると想定される収益を、現在価値に割り引く
このような考え方のもと算出した、長期的な収益性の指標(=ヨーロピアン・エンベディッド・バリュー/EEV)が年平均20%の成長率でアップ。
951.4億円(21年3月期)に達している、という説明も、印象的でした。
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事例4:プレミアムウォーターは、宅配水の定期宅配で年商500億円突破
4社目は、株式会社プレミアムウォーターホールディングス。
2006年に設立され東証2部上場、ウォーターサーバー(宅配水)の販売を主に行っています。
日本各地の水源から採った天然水を、家庭やオフィスまで流通を介さず直接お届けするのが特長ですが、事業モデルは定期購入型。
「3週間に1回」などあらかじめ決めたお届け頻度で、たとえば「1セット4,233円」(基本プラン)などを支払い、天然水の詰め替え用ボトルを受け取れる仕組みです。
売上は過去3年間で、277.2億円(2018年3月期)から563.4億円(21年3月期)へ、2倍以上に成長しました。
2021年3月期決算説明会資料より
株価も1,000円前後(2018年1月)から3,650円前後(2021年1月)と3.5倍以上にアップしました。
IR資料で開示されている顧客数は、2021年3月末時点で122万件。
売上を顧客数で単純に割ると、一人当たりの年間売上は約46,000円、月額換算で4,000円弱(※年度途中に加入した顧客を勘案すると、上記より高い金額)と推定できます。
プレミアムウォーターのKPI(2021年3月期)
顧客数 | 122万件 |
---|---|
ARRU | ※記載なし |
売上 | 566.3億円 |
ウォーターサーバーの開発・製造から品質管理、販売やアフターサービスまで“製販一体型”の事業モデルを成り立たせるためには、「顧客獲得」「水源開発」「自社物流網の構築」などの先行投資が必要です。
2017年度から新規顧客の獲得に注力、ブース販売やテレマーケティング、WEB広告などの施策のほか、代理店チャネルを活用して、年間7.5万件(2016年度)から31.3万件(20年度)まで獲得件数を伸ばしました。
このような顧客数の積み上げが実り、ストック型の売上が順調に増加しました。
営業利益ベースでは2017年度は-5.7億円、18年度は-11.8億円と営業赤字を出していたのが、18年度に黒字転換。
20年度は43.9億円の営業黒字を出すまで収益を伸ばしました。
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事例5:北の達人コーポレーションは、健康食品・化粧品の定期購入7割で「利益率29%」も
最後にご紹介するのが、株式会社北の達人コーポレーション。
2002年に創業してxx年に東証1部に上場、北海道を拠点にEC通販(D2C)事業を行う会社です。
売上で、27.0億円(2017年2月期)から100.9億円(20年2月期)と、3年間で約3.7倍に増加。
21年2月期は、「中長期的成長を睨んだ内部組織の整備期間として、リソースを割いたため」92.7億円と減収したものの、注目すべきはその利益率の高さです。
20年9月期は営業利益29.2億円で利益率28.9%、21年2月期も営業利益20.3億円で利益率21.9%と、高い水準をキープしています。
株価も40円前後(2017年1月)から、460円前後(21年1月)と大きく上がりました。
IR情報「業績ハイライト」より
取り扱う商品は、健康食品や化粧品など消耗品が中心。
同じ商品をリピートしてもらう「定期購入による売上比率は約7割」(「売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密」より)という、サブスクリプションの収益モデルを柱としています。
※開示されている売上から、60-70億円程度がサブスクリプション売上と推定。定期顧客数や1人あたりの平均単価などKPIは、IR資料でも開示されていませんでした。
同社の強みは、マーケティングを内製化してKPI管理を徹底していること。
広告の「CPO」や既存顧客の「LTV」など、顧客1人あたりの収益性(ユニットエコノミクス)に注目して利益を伸ばしていく方法論は、代表を務める木下勝寿氏の著書(前掲)でも公開されています。
D2C型のサブスクモデルをされている方にとっては、大いに参考になるでしょう。
サブスク型のビジネスモデルというと、大企業の新規事業やベンチャー・スタートアップ企業の事例が思い浮かびやすいかもしれません。
一方、上場企業クラスでも、サブスク型を“本業”として数十億円から年間100億円規模のストック収入を達成。
資本市場からも、株価アップという形で評価を受けている事例は、少なからずあります。
そうした企業の売上推移やKPIなどは、IR資料の公開情報でウォッチしていくことができます。
今回は取り上げられませんでしたが、上記のような規模感での成長を実現している企業もいくつか存在しています。
ご興味を持った方は、IR資料をチェックしてみると、見えてくるものがあるかもしれません。
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