サブスクリプションは「定額制」や「月額払い」とは違うのか?「サブスクとは」の基本を、世界の主要サービスや日本企業の事例、市場規模も交えてご説明します。なぜサブスクリプション事業の売上が増えているのか?を、ビジネスモデルやKPI、社会背景も交え解説していきます。

通販事業の現場で使われているKPIを新任担当者でも分かるようにまとめました。
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目次
サブスクリプションとは?月額定額制や定期購入との違い
サブスクリプションとは、「商品やサービスを一定期間利用でき、それに対して定額で継続的な課金が発生する販売方法」※です。省略して、「サブスク」とも呼ばれます。
- Netflixなど月額制の動画視聴サービス
- Spotify(スポティファイ)など定額の音楽配信
- freeeなどITソフトウェアの「SaaS」としての提供
- オイシックスなど定期食材宅配
- トヨタ自動車が始めた定額の自動車レンタル
といったように多岐にわたりますが、「定額」「継続課金」「一定期間の利用」の3つの条件に当てはまるサービスや商品を指します。
サブスクリプションに当てはまる | サブスクリプションではない | |
---|---|---|
料金 | 定額 | 商品ごとに異なる |
支払い | 継続課金 | 都度払い |
サービス | 一定期間利用可能 | 購入したら終了 |
※サブスクリプションの定義や意味は、人や立場によってさまざまですが、この記事ではビジネス視点からこのように定義しました。
サブスク=「使い放題」とは限らない
動画の「見放題」や音楽の「聴き放題」など、月単位定額で無制限に利用できるサービスもデジタルコンテンツを提供するサービスではよく見られます。
ただし、サブスクリプション=「使い放題」とは限りません。
洋服のレンタルでは「月2着まで」、スポーツジムは「平日昼だけ」といったように特に物理的なモノを届けるサービスでは、利用できる回数や量を制限するプランもあります。
携帯料金や水道代など従量課金はサブスクではない
携帯電話や電気・ガス・水道のように、使用した量に応じて料金が決まる従量課金のサービスは、サブスクリプションではありません。これらは毎月など継続的な料金が発生するものの、料金が定額ではないためです。
これらは継続的にサービスを提供することで収益を得る「リカーリング」と呼ばれるビジネスモデルに当てはまりますが、サブスクリプションではありません。
定期購入や定期宅配がサブスクと言えるか?は、サービスしだい
EC通販で毎月など定期的に商品を届ける「定期購入」や、新聞・雑誌や食品、ウォーターサーバーなど定期的に届ける「定期宅配」がサブスクに当てはまるか?は、サービスしだいです。定額制で継続課金ではあるものの、単にモノを送るだけでは、「商品やサービスを一定期間利用できる」という条件を満たさないからです。
ただし、「商品を買うことでサービスや情報にアクセスできる」「利用履歴に合わせて使い方をレコメンドしてもらえる」など、会員ならではのメリットを受けられる場合は、サブスクリプションに含めてもよいと筆者は考えます。
リースとの違いは、解約のしやすさに注目
ちなみに自動車など高額な商品については、金融機関が資金を提供して購入したうえで、月額定額で利用できる「リース」という仕組みがあります。サブスクリプションとリースの違いは法律や会計に及ぶため、ここで詳しい説明には入りませんが、実務的に押さえるべきは契約途中での解約の可否です。
サブスクリプションでは解約しやすいプランが多い一方、リースは途中で解約しづらいことには注意しましょう。
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大手など日本企業の成功・失敗事例
日本の企業でサブスクリプション事業を展開している企業は、どのような企業があるのでしょうか? 収益モデルや利益を上げているかも含めて、成功事例と失敗事例の両方を見ていきましょう。
「年商100億円」の成功事例も
サブスクリプション型の事業モデルを専業とする企業として、たとえばオイシックス・ラ・大地株式会社は食材の定期宅配型ECを展開しています。
「共働きで買い物の時間をとれない」「スーパーなどでは買いづらい、有機野菜を手に入れたい」などのニーズに応えたサービスです。2021年3月期の連結決算では「Oisix」や「らでぃっしゅぼーや」などのブランドで、定期会員約42万人、売上は1,000億円を達成しました。
その他にも以下のように、年商100億円以上の規模で事業を運営している会社も多くあります。
- マネーフォワード(クラウド会計など)
- ライフネット生命(生命保険)
- プレミアムウォーター(宅配水)
あるいは大企業の1事業として、サブスクリプションサービスに取り組むケースも少なくありません。
たとえばネスレ日本は、コーヒーマシーンのカプセルをオフィスや個人宅に定期的に届ける事業を展開しています。このケースではサブスクリプション事業の売上が、少なく見積もっても100億円以上は発生していると推測されます。
また、ソニーのゲーム事業におけるオンライン定額サービス「PS Plus(Play Station Plus)」は会員数4,700万人・売上4,000億円以上(推定)。
ハード(ゲーム機)の販売という“売り切り型”から定額収入メインのビジネスモデルへと転換し、利益を安定成長路線に乗せた成功事例として知られています。
AOKIや資生堂など大企業の撤退や、収益化に苦しむケースも
一方、サブスクリプションの事業を始めたものの、撤退や中止、あるいは事業譲渡などで開始時のサービスを終了した例もあります。
たとえば「紳士服のAOKI」で有名なAOKIホールディングスは、月7,800円から定額でスーツをレンタルできるサービスを2018年に開始。しかし、その半年後にはサービスを終了しました。既存事業・顧客との“カニバリゼーション”や、ITシステムの構築などコストが想定以上に膨らむため「中期的な黒字化が見込めない」と判断したそうです。
同じように大企業では、資生堂やZOZO、牛角などもサブスクリプション事業からの撤退を表明しました。
トヨタ自動車の始めた自動車の定額シェアサービス「KINTO」も、2021年3月期で売上が約33億円。年々成長していますが、会社全体の売上からするとまだ小さな規模であり、約67億円の営業赤字も発生しています。
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サブスクリプションの国内市場規模は1.5兆円以上
音楽・動画などのデジタルコンテンツ配信や服・ファッションのレンタル、IT・ソフトウェアや教育・住居に至るまで、多くの分野でサービスが存在しています。
その市場規模は、全体として2022年度で約1兆524億円と推計されているほどです。
具体的にどのような商品やサービスがあるか?よく知られているジャンルから見ていきましょう。
音楽
「月額980円」など定額を払えば、スマホのアプリなどで音楽を聴き放題できるサービスです。2021年の市場規模は744億円(前年比125%)となり、音楽配信売上全体の約83%を占めるまで伸びています。
(出典:2020年音楽配信売上は783億円で7年連続プラス成長、3年連続2桁増を達成)
名称 | 運営会社 | 料金 | 有料会員数 |
---|---|---|---|
Apple Music | Apple | 1,080円/月など | 約6,000万人 (2019年6月時点・グローバル) |
LINE MUSIC | LINE | 980円/月など | 約160万人 (国内) |
Spotify (スポティファイ) |
スポティファイ・テクノロジー | 980円/月など | 約1億9,500万人 (2022年6月時点・グローバル) |
動画
映画やアニメ、ドラマなどの動画が、スマホやPCなどで見放題となるサービスです。市場規模ですが、サブスクにあたる「定額制動画配信サービス」が2021年時点で4,614億円と推計されます。
(出典:「GEM Partners「動画配信(VOD)市場5年間予測(2022-2026年)レポート」)
本・雑誌
本や雑誌が、スマホやPCなどで読み放題となるサービスです。書籍市場全体では2021年度で4,662億円(前年比118%)と成長しています。
(出典:「出版科学研究所 出版市場は3年連続プラス成長、電子が牽引、紙の書籍も増加」)
服・ファッション
スマホのアプリなどで、服やバッグなどを自由にレンタルできる定額サービスです。市場規模は2021年度で、298億円と推計しています。
※以下より弊社推計
サブスクリプション市場規模9,615億円 (2021年度) のうち、3.1% (サブスクリプション・サービスの動向整理(2019年12月)より) がファッション定額サービスを利用しているとする。
IT・ソフトウェア
文章作成や画像編集・セキュリティ保持などのITツールを利用できるサービスで、「SaaS(Software as a Service)」とも呼ばれます。市場規模は2020年時点で約2,318億円と推計、2025年には約6,001億円まで伸びると予測されています。
(出典:国内エンタープライズアプリケーションソフトウェア市場予測を発表)
その他
たとえば自動車(例:トヨタ自動車「KINTO」)、おもちゃ(例:トラーナ「トイサブ!」)、家具・家電(例:subsclife「subsclife」)なども買わずに定額で利用できるサービスがあります。
変わったところでは、月会費を払うことでラーメン屋さんに何度でも通って食事できたり、カフェでコーヒーを好きな時に飲めたりするメニューもあります。
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メリットは安定的な売上、デメリットは初期投資の大きさ
サブスクリプションのビジネスモデルの1番のメリットは、安定して継続的な売上を挙げられることです。しかし、初期投資が大きく売上も短期的には成長しづらいため、立ち上げ期の資金繰りがデメリットになりやすいでしょう。それぞれ、どういうことか説明していきます。
デメリット:事業立ち上げ当初は、「赤字を掘る」先行投資期間も
サブスクビジネスの立ち上げに必要な投資は、サービスによって異なりますが、
- 商品やコンテンツを買い付けたり生産したりするための原価
- サービス基盤を整えるための、ITシステムやロジスティクスの費用
- ユーザーを獲得するための広告費
などビジネスの基盤を整えるために初期費用がかかります。
ところが売上はというと、短期的には固定費に比例しては伸びていきません。
例えばITソフトウェアの、従来通りで企業にパッケージを「売り切り」で100万円で販売した場合、販売した時点で売上が立ちます。一方、SaaS(Software as a Service)のモデルで月額5万円で利用できるサービスとした場合、初月の売上は5万円。100万円に届くまでには、20ヶ月間がかかります。
初期投資が大きな反面、売上が立つのは後ろ倒しになるため、「赤字を掘ってしまいやすい」のです。したがって、スタートアップの場合は株式による資金調達、大企業が取り組む場合は内部留保や借入などによって、先行投資をできる体力を整えてから始めるケースがほとんどです。
メリット:損益分岐点を超えれば、利益が積み上がる
先ほどの例では、21ヶ月目以降も利用を継続した場合、この毎月5万円の売上が継続的に積み上がっていきます。もちろん解約も一定数は発生しますが、自動継続の支払いなどと合わせて、解約率は一定程度におさまるよう設計できます。
サービスが支持されユーザー数が順調に増えると、売上が固定費を上回るようになります。ユーザー数の増加とともに、商品原価や広告費、カスタマーサポートやサーバー費用や送料なども変動費としてかかってきますが、それでも利益が出るビジネスモデルができていれば、「損益分岐点」を超えます。

サブスクリプションモデルで利益が出るようになるまで
ただしサブスクリプションはすぐにやめやすく、解約が一定確率で発生します。そこで顧客に飽きられないよう、商品・サービスを常に改善したり、新しいコンテンツを追加したりなど、市場環境に適応して絶えず変化しながら、顧客と長期的な関係を築き、継続率を上げていくことが求められます。
すなわち、
- 赤字を覚悟して先行投資をできる体力があること
- 常に変化をしながらPDCAを回せる組織をつくること
- 顧客を大事に長期的な関係性をつくっていくこと
これらを実行できる企業にとっては、安定して継続的な売上をもたらし、事業規模の拡大にともない競争優位も生まれる、素晴らしいビジネスモデルになるでしょう。
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ビジネスモデルのポイントと、よく使われるKPI
前章で説明したビジネスモデルをつくるために、サブスクリプションの事業者でよく使われるKPIと、その背景にある考え方を押さえておきましょう。
ポイントは2つあって、1つ目は継続的な売上を要素分解して、それぞれのKPI(重要業績指標)を着実に伸ばしていくこと。そして2つ目が、新規ユーザー獲得に投資をしても、その投資を継続的な売上で回収できるようにユーザー1人あたりの収支を「黒字」にすることです。
ポイント1:売上をユーザー数と平均単価(ARPU)に分解
サブスクビジネスの肝である継続的な売上は、ユーザー数とユーザー1人あたりの平均単価(ARPU※)に分解できます。
※Average Revenue Per Userの略で、日本語では「アープ」と呼ばれます。
ある月額定額制のサービスでユーザー数が50,000人、ARPUが3,000円ならば、売上は3,000円×50,000人=1.5億円です。
月次の継続的な売上をMRR(Monthly Recurring Revenue)すなわち「月間定期収益」と呼び、将来も安定して見込める売上として予測・管理していきます。
MRRを上げるため、平均単価(ARPU)を上げる。そのためには、「上位プランへの乗り換えを勧める」といったアップセルや、「付属サービスも併せて買ってもらう」といったクロスセルも定番です。
ポイント2:LTVやCACなどユニットエコノミクスを管理
続いて「売上や費用をユーザー1人あたりに分解すると?」という視点から、投資対効果(ROI)を見ていきます。「ユニットエコノミクス」とも呼ばれる考え方で、さまざまな指標がありますが、大事なのは「CAC」と「LTV」の2つです。
CAC(Customer Acquisition Cost)は、「新規ユーザーを1人獲得するために、どれだけ費用をかけているか?」。
たとえば広告費100万円をかけて、50人の新規ユーザーを獲得できました。この時CACは「100万円÷50人=20,000円」です。
続いてはLTV(Life Time Value/顧客生涯価値)といって、ユーザー一人あたりのトータルの売上です。
たとえば月額3,000円のサービスの平均継続期間が1年間ならば、LTVは36,000円です。
20,000円の費用をかけて獲得したユーザーが、1年間で36,000円の売上を生んでくれるので、36,000円-20,000円=16,000円。
この金額から、商品原価やカスタマーサポート、システム・物流などの費用を賄えれば、ユーザー1人あたりの収益は「黒字」で投資した分を回収できています。
LTVを伸ばすには、たとえば解約(チャーン)を防ぐ施策も有効です。「効果を実感してもらえているか?」「解約の原因となりがちな不満を放置していないか?」など、商品・サービスやコミュニケーションを見直します。
このように数字に分解して、事業の成否を深掘りして分析していくこと、KPIを伸ばすための施策を打っていくことが、サブスクリプション事業を行うにあたって大事です。
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