D2C事業をされている方やこれから始められる方、特に経営やマーケティング・販売に携わる方におすすめの本をまとめました。
事業会社の経営者が実践的な方法論をまとめた本を2冊と、支援会社(デザインファーム)の専門家が時流・トレンドや海外事例をつづった本を1冊を選びました。
D2C事業の現場で使われているKPIを新任担当者でも分かるようにまとめました。
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目次
商品開発やマーケから、組織運営・ファイナンスまで、
現場経験にもとづきフレームワーク化した“指南書”
D2C事業をスタートする方に、まずお薦めしたいのが、「リテール・デジタルトランスフォーメーション D2C戦略が小売を変革する」。
日本発D2Cブランドの草分け的な存在として有名な「FABRIC TOKYO」の役員が、D2Cの事業戦略について、自社の具体的な事例を盛り込みながら骨太に解説しています。
リテール・デジタルトランスフォーメーション D2C戦略が小売を変革する
FABRIC TOKYOは、ビジネススーツやシャツなどをオーダーメイドで販売。
サイズの採寸データをクラウド上に登録し、オンラインで購入できます。
著者の三嶋憲一郎氏は、公認会計士として大手監査法人で働き、2015年株式会社ライフスタイルデザイン(現、株式会社FABRIC TOKYO)にジョイン。
2017年から取締役として経営・財務戦略の責任者を務めている方です。
同書で特筆すべきは、マーケティングや商品開発といった陽の当たりやすい分野だけではなく、「組織運営」や「ファイナンス」といった重要だけれども、なかなか表には出てきづらい分野についてもそれぞれ章を割き、論じていること。
そのうえで著者は、D2Cは「総力戦」、「ビジネスの総合格闘技」であると説きます。
D2Cビジネスは決して簡単ではありません。
メーカーとしての役割、小売業としての役割、IT企業としての役割を複数にない、非常に複雑なサプライチェーンを有する業界も少なくありません。
「顧客と直接につながる」ということは、すなわち広告やSNSなどマーケティング、ITシステムのUXや安定性、カスタマーサポートに店舗スタッフなど、顧客との接点を自社主導で一貫したものに整備していく必要があるということ。
そのためには、「エンジニア、デザイナー、商品企画、マーケティング、生産管理、カスタマーサポート、店舗、店舗開発、経営企画、バックオフィスなど長いバリューチェーンを統合した組織運営をする必要」があると言います。
一方、D2C事業のメリットは、「顧客とタイムリーに、かつ直接、純度の高いコミュニケーションができる」こと。
顧客とつながれるからこそ、時代や社会の変化、顧客の価値観やニーズの変化に合わせて、ケイパビリティ(組織能力)を変化させられます。
したがって、「ケイパビリティを軸にした組織構築がD2C企業にとっては重要、かつ強みにしていける」という著者の持論が印象に残りました。
商材選びのポイントや事業計画の立て方、ファイナンスモデルなど、日本の市場環境に合った解説も参考になります。
事業の現場経験を踏まえたフレームワークは、D2Cビジネスを始める方にとって、“指南書”となるでしょう。
D2C事業の現場で使われているKPIを新任担当者でも分かるようにまとめました。
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“D2Cブーム”の背景にあるトレンド・消費者の変化を、海外事例とともに紹介
続いて紹介するのが、日本語では初めてD2Cをメインに取り上げた本でしょう。
「D2C 『世界観』と『テクノロジー』で勝つブランド戦略」です。
D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略
著者の佐々木康裕氏は、デザイン会社「Takuram」のディレクター兼ビジネスデザイナー。
FABRIC TOKYOのデニムブランド「STAMP」や乳酸菌サプリ「KINS」、丸井のD2C戦略子会社「D2C&Co.」などD2C企業の支援を、ユーザリサーチからコンセプト立案、エクスペリエンス設計・ビジネスモデル設計など、トータルに支援しています。
本書で一番のポイントは、D2Cという業態の新しさや背景にある消費者の変化など、概念と海外事例をあわせて丁寧に解説していること。
D2Cというと、「メーカー通販と同じじゃないの?」「単品リピート通販は昔からあったよね」と言われることもあります。
伝統的メーカーブランドとD2Cブランドの異なる点として、著者が指摘するのが「モノからコトへ」の消費トレンドの変化のなかで、「コト付きのモノ」を販売している点。
すなわち、商品の機能だけではなくブランドの「世界観」を差別化要素、さらには競争優位性としている点です。
たとえば、米国のスーツケースのD2CブランドであるAwayは、「旅」に絡めてポップアップのホテルを開いたり、旅をテーマとした雑誌(「HERE」)まで発行しているそう。
『HERE』にはAwayのカタログとしての機能はほとんどない。
その代わり、旅がもたらすライフスタイルや、実現したい世界観が余すことなく表現されている。
毎号、美しいイラストや写真などのビジュアルと、何万字もの長文記事が並び、読者にブランドが創りあげる世界に没入してもらうことができる。
雑誌の発行という、本来のビジネスとは一見無関係に見えることに、なぜD2Cブランドが取り組んでいるのか?
それはAwayが、自らを「スーツケースを販売する会社」ではなく、「“旅”を売る会社」と位置付けているから。
「旅のある生活」というストーリーを、店舗やSNS、雑誌などを通じて顧客に伝えていくことで、世界観に憧れや共感を抱いた顧客が集まり、心理的な結びつきが生まれます。
プロダクト自体は競合が「真似しようとすれば、一晩でできてしまう」という競争環境のなか、「Awayの顧客はスーツケースというモノを買うと同時に、Awayが作る世界観を買っている」ことで、競合と比べられた時の優位性を担保しているというのです。
このように、海外の事例が豊富に紹介されていることもポイント。
私も2018年に読んだ時に、EverlaneやCasper、Warby Parkerなど米国発のD2C企業についてこの本で初めて知り、新しいトレンドに心が躍ったものでした。
2021年時点では事例は若干古くなっていますが、事例の背景にある消費者心理の変化や小売・メーカー業界のトレンドについて、本質的な理解を得られるはずです。
D2C事業の現場で使われているKPIを新任担当者でも分かるようにまとめました。
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「売上100億円・営業利益29億円」の事業構造を、数字でひもとく
最後に紹介するのが、「売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密」。
健康食品や化粧品などのD2C(単品リピート通販)事業を手がける、北の達人コーポレーション株式会社で代表を務める、木下勝寿氏の著書です。
売上ではなく「利益を増やすためには?」にフォーカスして、同社が売上約100億円・営業利益約29億円・営業利益率29%(いずれも2020年2月期)と、高収益を上げた経営の仕組みを公開。
商品開発から広告・CRMなど販促、CS(カスタマーサポート)やオペレーション、さらには人材採用・育成まで、体系的かつ実践的に解説しているので、D2Cビジネスの経営に携わられている方にも多いに参考になるでしょう。
売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密
そのなかでも、特にD2Cビジネスに取り組んでいる方に役立つのが、LTVとCPOの考え方でしょう。
・CPO(Cost Per Order):新規顧客獲得1人あたりのコスト
・LTV(LifetimeValue):顧客1人あたりの生涯(あるいは一定期間)での売上/粗利
このLTVからCPOをマイナスした値を最大化することで、顧客1人あたりの利益を高める。
いわゆる「ユニットエコノミクス」の考え方は、ご存知の方も多いでしょう。
同社では、LTVやCPOを具体的にどのように管理しているか?
ただ一律に指標を出すのではなく、商品と広告媒体の組合せごとに「時系列LTV」を算出して、「上限CPO」を決めているそうです。
どういうことか?同書の179ページから掲載されている計算例ですが、たとえばYahoo!とGoogleの両方に100万円ずつ広告を出して、以下のような結果が得られたとします。
・Yahoo!から獲得したお客様は100人で、CPOは10,000円
・Googleから獲得したお客様は80人で、CPOは12,500円
この数値だけでは、広告費あたりの獲得効率はYahoo!の方がGoogleより良いように見えます。
では、これらの広告媒体から初回購入したお客様が、リピート購入したのか?
「時系列LTV」という独自の指標(3ヶ月後や12ヶ月後など月ごとの売上の推移)を計測して、1年後の販売利益を比べると・・
・Yahoo!:時系列LTV20,000円-CPO10,000円=10,000円
・Google:時系列LTV30,000円-CPO12,500円=17,500円
この計算例では、Yahoo!よりGoogeから獲得したお客様の方が、リピート率や平均単価などが高かったのでしょう。
1年間での売上、すなわち「時系列LTV」が高くなったため、CPOを差し引いたお客様1人あたりの利益は、Google>Yahoo!となりました。
この場合では、Googleの方が効率が良いことがわかったので、もっとCPOを高くしても採算が合う場合もあります。
広告媒体ごとにこのようなデータを出し、広告媒体ごとに上限CPOを設定する。
まず1年で一人のお客様がいくらの販売利益を出すのかを決め、逆算して広告媒体ごとの上限CPOを決めてみるのだ。
上限CPOが定まってないと、むやみな売上の拡大に走り、広告費が増えて利益を圧迫してしまうことも。
ですが、利益構造を常に頭に入れて広告を運用する、すなわちLTVから逆算した上限CPOを厳守することで、利益を増やすことができるのです。
著者の木下氏は、Twitterアカウントで「東証1部社長兼現役D2Cマーケッター」の肩書きを使われているとおり、大局的な経営の観点と具体的なマーケティングの視点を併せ持った、独自の知見を日頃から発信されています。
この本でも「5段階利益管理」という管理会計の考え方をもとに、新規獲得やリピートなどの販売戦略と合わせて、事業構造を数字で分解してひも解いており、深い学びを得られました。
D2Cビジネスの経営やマーケティングに役立つ本を3冊ご紹介しましたが、いかがでしたか?
この記事では紹介しきれなかったですが、「顧客をつかんで離さないD2Cの教科書」は事業者の事例が豊富に載っているので、特にD2C事業をこれからスタートする方にとってはイメージが湧きやすいでしょう。
また事業モデルのうえではD2Cとも近い、伝統的な通販ビジネス(単品リピート通販)を理解するうえでは、以下の記事にもおすすめの本をまとめています。
ご興味がある方は、合わせてご参考にされてみてください。
D2C事業の現場で使われているKPIを新任担当者でも分かるようにまとめました。
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